経理や管理部門の求人を見ていると、「日商簿記2級以上」「USCPA歓迎」といった記載に出会います。
名前は知っていても、それぞれが何をどう測るものなのかまでは整理されていないことが多いはずです。
ここでは日商簿記、USCPA(米国公認会計士)、FASS検定(経理・財務スキル検定)の3つについて、主催と評価の仕組みがどう違うのかを整理します。
取得すれば転職で有利になるかどうかは扱いません。
その理由も後半で書きます。
3つは測っているものが違う
主催と評価の形を並べる
まず、3つがどこで実施され、結果がどう示されるのかを並べます。
| 資格・検定 | 実施している主体 | 結果の示され方 |
|---|---|---|
| 日商簿記 | 日本商工会議所 | 級ごとの合否 |
| USCPA | 試験は全米で統一。ライセンスは各州が発行 | 科目ごとの合否と、州によるライセンス |
| FASS検定 | 日本CFO協会(経済産業省の委託事業) | A〜Eの5段階評価 |
この一行だけでも、3つが同じ種類のものではないことが分かります。
日商簿記は国内の団体が実施する検定、USCPAは米国の州が発行する資格、FASS検定は国の施策を背景に作られた実務スキルの測定です。
「合格」という言葉の意味が揃っていない
日商簿記は、受けた級に対して合格か不合格かが出ます。
USCPAは科目ごとの合格があり、そのうえでライセンスの取得という別の段階があります。
FASS検定には合否そのものがありません。
受験するとA〜Eのいずれかの評価が示される仕組みです。
したがって、3つを「どれが難しいか」という一本の軸で並べることはできません。
測っている対象も結果の出し方も違うためです。
難易度の比較から入ると、この違いが見えないまま学習の計画を立てることになります。
3つは置き換え合う関係にない
簿記は会計処理の知識、USCPAは米国の会計基準や監査を含む専門知識、FASS検定は経理・財務の実務スキルを対象としています。
範囲が重なる部分はありますが、一方が他方の上位版という関係ではありません。
「どれか一つを選ぶ」という前提で比べるより、自分がいま何を確かめたいのかを先に決めるほうが早く決まります。
基礎の理解を確認したいのか、実務の到達度を数値で見たいのか、扱う会計基準を広げたいのかで、対応するものが変わります。
日商簿記は級で段階が分かれている
3級は商業簿記が中心
日商簿記3級で出題されるのは、商業簿記が中心です。
商品の売買を行う企業を想定した記帳と、財務諸表の作成に関わる基礎が範囲になります。
仕訳から決算までの一連の流れを一通り扱う構成です。
経理の実務経験がない段階でも、独学で始めやすい範囲とされています。
範囲が定められているため、何をどの順序で学ぶかを自分で組み立てる必要がない点は、学習を進めるうえでの実務的な利点になります。
2級では工業簿記が範囲に加わる
2級では、3級で扱った商業簿記がより高度になります。
それに加えて、工業簿記(原価計算)が新たに出題範囲に入ります。
ここが3級と2級の間にある最も大きな段差です。
工業簿記は、製造の過程で発生する費用を製品ごとに割り当てて計算する領域です。
商業簿記とは考え方の組み立てが異なるため、3級の延長として学べる内容ではありません。
製造業の経理に関わる場合、この領域が業務と直接つながります。
業種によって扱う取引が変わる点は資格なしで経理として転職できる?でも触れています。
合格率と学習時間は目安として扱う
合格率の目安として、3級は4割前後、2級は2割から3割程度という数字が受験対策の情報でよく挙げられます。
学習時間の目安も、3級で約100時間、2級で約200時間から300時間とされることが多くあります。
ただし、これらは固定された基準ではありません。
合格率は実施回ごとに変わり、日本商工会議所が回ごとの結果を公表しています。
学習時間は受験対策を行う事業者が示す目安であり、簿記の知識をどこまで持っているかによって実際の時間は変わります。
数値を判断の中心に置くより、出題範囲の差のほうが確実な材料になります。
正確な合格率や試験の実施要項は、日本商工会議所の公表資料で確認するのが確実です。
どの級から始めるかは担当業務で決まる
級を選ぶときは、一覧を眺めるより自分が担当している業務から考えるほうが決まります。
伝票の起票や仕訳を扱っている段階であれば3級の範囲と重なり、月次の締めや原価に関わっているなら2級の範囲に近づきます。
現在の業務と重ならない級から始めると、学習した内容を実務で確認する機会がありません。
逆に重なっていれば、日々の処理がそのまま復習になります。
担当した工程を書き出す方法は経理・人事・総務、転職の探し方は違う?にまとめています。
USCPAは州ごとに要件が異なる
米国の資格だが日本国内で受験できる
USCPAは米国公認会計士の呼称で、米国の資格です。
ただし試験は日本国内でも受験できる仕組みが設けられており、渡米しなければ受けられないというものではありません。
日本にいながら米国の会計基準や監査の体系を学ぶ入口になる、という位置づけで語られることが多い資格です。
日本の公認会計士とは制度が別であり、資格ごとの業務範囲の違いは税理士・会計士・弁護士・司法書士の違いは?で整理しています。
試験は全米統一でもライセンスは州単位
ここが最も誤解されやすい点です。
試験そのものは全米で統一されていますが、ライセンスを発行するのは州です。
そのため、受験資格として求められる学歴や単位の要件は州ごとに異なります。
「USCPAの受験資格」を一つの基準として調べても、答えが一つに定まらないのはこのためです。
自分が出願する州を先に決め、その州が定める要件を確認するという順序になります。
ここを飛ばすと、集めた情報が自分に当てはまらないまま計画を立てることになります。
業務を行える範囲もライセンスに紐づく
ライセンスを取得したあと、実際に会計業務を行える範囲も州に紐づきます。
監査証明業務などを行えるのは、そのライセンスを取得した州、またはMRA(国際相互承認協定)を締結した国や地域に限られます。
つまり「USCPAを取れば、どこでも会計士として業務ができる」という理解は正確ではありません。
資格の名称と、業務を行える範囲は別の話として押さえておく必要があります。
制度の詳細は、出願を検討する州の当局や試験の実施機関が公表している案内で確認してください。
日本での勤務先は監査法人に限らない
日本国内では、USCPAの取得者が監査法人だけでなく、事業会社や金融機関などでも働いています。
業種を問わず在籍しているという点は、この資格の使われ方を考えるうえで押さえておく価値があります。
一方で、取得者が業種を問わず在籍していることと、取得が採用の結果につながることは別の話です。
後者を示すデータについては、後述のとおり当サイトでは確認できていません。
FASS検定は合否ではなくスコアで示す
経済産業省の基準をもとに作られている
FASS検定は、経済産業省の委託事業として日本CFO協会が運営・実施している検定です。
経済産業省が策定した「経理・財務サービス・スキルスタンダード」を基に開発されており、経理・財務の実務に特化した内容になっています。
簿記が会計処理の知識を対象とするのに対し、FASS検定は実務のスキルを測る設計です。
同じ会計の領域でも、見ている角度が違うということになります。
A〜Eの5段階で、分野ごとの達成度も出る
FASS検定には合否がありません。
結果はA・B・C・D・Eの5段階で示され、総合点は800点満点です。
加えて、分野ごとの達成度も表示されます。
この仕組みは、実務のスキルを客観的な形で示せるという点に特徴があります。
合否のある試験では、不合格の場合に手元に残るものがありません。
段階評価であれば、いまどの位置にいるかが毎回残ります。
どの分野が弱いかも同時に分かるため、次に何を学ぶかを決める材料にもなります。
試験の形式はCBTで100問・90分
出題はCBT方式で、100問の四肢択一を90分で解く形式です。
加えて、任意で受験できるFP&A(経営企画スキル)のオプション科目も用意されています。
申込の方法や実施の時期、受験料といった条件は運営側の案内で確認します。
試験の仕組みは見直されることがあるため、数年前の解説を根拠に判断しないほうが安全です。
日本CFO協会が公表している案内を直接見るのが確実です。
自分の状況に合わせて考える
会計の基礎から積み上げる段階
経理の実務経験が浅い、または会計の知識をこれから身につけるという段階であれば、範囲が段階的に定められているものが扱いやすくなります。
日商簿記が3級と2級で範囲を分けているのは、この積み上げに対応した構造です。
未経験から管理部門を目指す場合の入口の違いは未経験から管理部門に転職できる?で扱っています。
学習と並行して求人を読む場合は、必須要件に書かれている内容を先に確認しておくと、学習の優先順位がつけやすくなります。
実務の到達度を数値で確認したい段階
すでに経理の実務を担当していて、自分の到達度を客観的に確認したいという段階では、段階評価の仕組みが対応します。
FASS検定が分野ごとの達成度を示すのは、この用途に向いた設計です。
実務経験はあるが、担当してきた範囲が偏っているかもしれないという不安がある場合、分野ごとの結果はそのまま確認の材料になります。
担当工程の書き出し方は職務経歴書はいつ作ればよいかにまとめています。
扱う会計基準を広げたい段階
米国の会計基準や監査の体系まで扱いたい場合は、USCPAがその範囲に対応します。
ただし前述のとおり、受験資格もライセンスも州ごとに要件が異なります。
着手する前に、出願する州を決める作業が必要になります。
学習にかかる期間も長くなりやすいため、転職活動と並行するのか、順番に進めるのかを先に決めておくほうが計画が崩れにくくなります。
在職中の時間の作り方は在職中の転職活動はどう進める?で扱っています。
資格が採用でどう評価されるかは確認できていない
当サイトで調べた範囲では、経理・管理部門の採用で資格がどう評価されるかを示す、出典の確認できる調査データは見つかっていません。
この点は未経験から人事の仕事を始めるにはどうする?や経理の転職は年代でどう変わるかでも同じ結論になっています。
そのため、この記事では「取得すれば有利になる」とも「意味がない」とも書きません。
確認できない見通しを学習の唯一の理由に置くと、途中で優先度が下がりやすくなります。
同じ考え方は中小企業診断士はコンサル転職で有利?でも扱っています。
資格の話を求人とサービスの見方につなげる
管理部門向けサービスの対象条件に資格は書かれていない
当サイトで整理している管理部門向けのサービスは10件で、うち2件は求人を出す企業側を対象としたものです。
求職者が使う8件の対象条件を確認したところ、資格の保有を挙げているものはありませんでした。
代わりに置かれているのは、対象となる年齢と希望勤務地です。
たとえば法務部特化型の転職・求人情報なら/BEET-AGENTは面談実施型で、東京・神奈川・埼玉・千葉に在住の20代〜40代が対象とされています。
WARC AGENTは面談実施型で、希望勤務地が東京・神奈川・埼玉・千葉・兵庫・大阪・京都・愛知の場合が対象です。
ここで注意したいのは、書かれていないことが「不要」を意味しないという点です。
公開されている条件に記載が無いというだけで、選考で評価されないという意味ではありません。
求人票では必須・歓迎・記載なしを数える
資格が実際にどう扱われているかは、求人票の応募要件から直接読み取れます。
同じ資格名でも、必須要件に入っていれば選考に進む条件であり、歓迎要件であれば加点の材料という扱いです。
希望する地域と職務で求人を20件ほど集め、資格名が必須要件に何件、歓迎要件に何件、まったく記載がないものが何件あるかを数えます。
ここで得られる数字は、一般論より自分にとって正確な材料になります。
求人票のどこを読むかは求人票のどこを読むかにまとめています。
数える作業は登録型で先に済ませられる
求職者向け8件のうち、会員登録から始まる登録型はMS-JapanとBEET-AGENTの2件で、どちらも対応地域は全国です。
無料相談の申込から始まる申込型はCORPOの1件で、こちらも全国が対象です。
求人の要件を数える作業は、この段階で進められます。
面談実施型は5件あり、求人票に書かれていない扱われ方を直接尋ねられる点が利点になります。
登録だけで進める方法は管理部門は登録だけで転職できる?、方式ごとの違いは登録型と面談型の転職サービス、どちらを選ぶ?で扱っています。
学習と転職活動の順序を決めておく
資格の学習には期間がかかります。
その間に年齢が上がると、対象年齢を定めているサービスの候補が変わることがあります。
先に動くのか、学習を進めてから動くのかは、自分が対象に入るサービスを確認したうえで決めるほうが判断材料が増えます。
学習中の段階でも、書類には現在地を書けます。
合格した級や受験の予定を書いておけば、いまどこまで進んでいるかが伝わります。
管理部門全体の市場の状況は管理部門の転職市場はどう違う?にまとめています。
まとめ
- 日商簿記・USCPA・FASS検定は、実施している主体も結果の示され方も違う
- 日商簿記は級で段階が分かれ、2級から**工業簿記(原価計算)**が出題範囲に加わる
- 合格率や学習時間は目安であり、確実な材料は出題範囲の差のほう
- USCPAは試験が全米統一でも、受験資格とライセンスの要件は州ごとに異なる
- 業務を行える範囲も、ライセンスを取得した州とMRA締結国・地域に限られる
- FASS検定は合否ではなくA〜Eの5段階で、分野ごとの達成度も示される
- 経理・管理部門で資格がどう評価されるかを示す、出典の確認できる調査は見つかっていない
- 管理部門向けサービスの対象条件に置かれているのは、資格ではなく年齢と希望勤務地



