経理の担当者が自分一人しかいない、という体制で働いている人がいます。
日次の処理から月次の締め、年次決算、税理士とのやり取りまでを一人で回す形です。
この状態は負担の話として語られがちですが、転職を考える段階では別の見方も要ります。
業務範囲が広いという事実は、書類に書ける材料でもあるからです。
ここでは、こうした体制がなぜ生まれるのかを整理したうえで、経験の書き方と次の職場で確認する項目までを扱います。
一人で担う体制が生まれる背景
採用が追いつかないことが不足の主な要因
Sansan株式会社が経理担当者1000名を対象に行った調査(2024年3月18〜21日実施)では、人手不足を感じている割合は50.1%で、そのうち85.2%が「深刻」と回答しています。
要因として挙げられたのは「新たな経理人材を採用できないため」が48.1%、「業務の自動化・システム導入が進んでおらず生産性が低いため」が32.1%でした(出典: Sansan株式会社)。
同じ調査では、人手不足を感じている人の約3割が「担当者の高齢化による担い手不足」を挙げており、この傾向は特に地方で顕著とされています。
一人で担う体制は、その企業の方針というより採用の結果として生まれている場合があるということです。
仕組みが整っていないことも同時に起きている
要因の2番目に「業務の自動化・システム導入が進んでいない」が挙げられている点も見ておく価値があります。
人が足りないことと、仕組みで負担を減らせていないことが同時に起きている状態です。
経理管理職165人への2025年8月調査でも、6割以上が人材面に不安を感じており、DXが進まない要因として「人材不足」を挙げた回答が51.9%で最多でした(出典: インボイス社)。
人が足りないから仕組みを整える時間が取れず、整わないから負担が減らないという関係になりやすい構造です。
体制の呼び名は求人票には書かれない
「ひとり経理」という言い方は実務の場で使われている呼び名で、求人票に見出しとして書かれることはほとんどありません。
募集要項では「経理業務全般」「少人数体制」といった表現になります。
そのため、応募する側から見ると、入る前に体制が読み取りにくい項目です。
人数が書かれていない求人については、確認する項目として控えておくことになります。
求人票のどこを読むかは求人票のどこを読むかにまとめています。
一人で担う体制では何が起きるか
確認する人がいない状態が続く
経理の実務では、処理をする人と確認する人を分けることが基本的な考え方とされています。
一人で担う体制では、この分担が構造的に成立しません。
自分の処理を自分で確認することになり、誤りに気づく機会が減ります。
この点は、本人の注意深さで解決できる種類の問題ではありません。
体制の話であって能力の話ではないという前提を持っておくと、転職の理由を整理するときにも説明が組み立てやすくなります。
業務が属人化し、休みにくくなる
処理の手順が自分の頭の中だけにある状態が続くと、休むこと自体が難しくなります。
月次の締めや支払の期日は動かせないため、不在の期間に業務が止まります。
この状態が続くと、転職を検討しても引き継ぎの見通しが立たず、動くこと自体が先延ばしになりがちです。
手順を文書に残しておく作業は、退職の準備であると同時に、いまの負担を減らす作業でもあります。
一方で業務範囲は広くなる
同じ規模の企業でも、複数名の体制であれば担当が分かれます。
一人で担う体制では、日次から決算までの工程を通して経験することになります。
分業された環境では、同じ年数で同じ範囲を経験できるとは限りません。
つまり、体制の負担と経験の幅は同じ事実の裏表です。
転職の場面では、この幅のほうが材料になります。
経理部門の人数によって求められる経験の性質が変わる点は資格なしで経理として転職できる?でも扱っています。
転職市場での書き方
「経理業務全般」とは書かない
職務経歴書に「経理業務全般を担当」と書くと、読み手には何をどこまで担当したかが伝わりません。
一人で回してきた経験は、書き方によって最も損をしやすい部分です。
書くのは工程です。
伝票の起票と仕訳、売掛・買掛の管理、経費精算、給与に関わる処理、月次の締め、年次決算、税務申告の資料作成、監査や税理士への対応といった単位に分け、それぞれ主担当だったのか補助だったのかを添えます。
作る順序は職務経歴書はいつ作ればよいかにまとめています。
回してきた規模を数字で添える
工程だけでは、業務の重さが伝わりません。
年商の規模、月間の仕訳件数、取引先の数、給与計算の対象人数、使用している会計システムの名称を添えると、同じ工程名でも中身の見当がつくようになります。
数字は自分の職場のものであれば確認できます。
一般論としての「大変さ」より、扱ってきた量のほうが読み手にとって具体的です。
決算を通して担当した経験は分けて書く
年次決算を主担当として完了させた経験があるなら、それは分けて書く価値があります。
何期分を担当したか、税理士や監査法人とどう分担していたか、開示や申告のどこまでに関わったかまで書けば、範囲が確定します。
反対に、外部に委託していた部分は委託していたと書きます。
範囲を広く見せるより、境目をはっきり書くほうが、入職後の想定がずれません。
次の職場で確認すること
経理部門の人数と分担
まず確認するのは人数です。
ただし人数だけでは分かりません。
経理として何名いるか、そのうち決算に関われる人が何名いるか、総務や人事と兼務している人が含まれていないかまで聞くと、実際の体制が見えてきます。
求人票に人数の記載がある場合は、それを控えたうえで、内訳を面談で確認する形になります。
記載がない求人では、この項目自体が質問の候補になります。
承認と確認の流れ
人数が複数いても、確認の仕組みが動いていなければ、実質的には一人で処理しているのと変わりません。
誰が承認しているのか、支払の実行と記帳が同じ人に集まっていないか、月次の締めをレビューする人がいるかを確認します。
この質問は、入職後に自分が負う責任の範囲を確かめるものでもあります。
人数ではなく確認の流れを聞くほうが、体制の実態に近い答えが返ってきます。
引き継ぎと外部への委託範囲
前任者がいるのか、退職済みで引き継ぎ期間がないのかで、入職直後の状況が大きく変わります。
募集の背景が増員か欠員かは、この点に直結する情報です。
あわせて、顧問税理士や記帳代行にどこまで委託しているかも確認します。
委託の範囲が広ければ社内の負担は軽くなりますが、社内に残る経験の幅は狭くなります。
どちらを望むかは、次に何を積みたいかで決まります。
システムの導入状況
前述の調査で、人手不足の要因として「業務の自動化・システム導入が進んでいない」が32.1%挙げられていました。
この点は、次の職場を選ぶときにそのまま確認項目になります。
会計システムの名称、経費精算や請求書処理の仕組み、手作業で残っている工程がどこかを聞くと、日々の負担の形が見えます。
導入済みなのか、これから導入する段階なのかで、入社後に求められる動き方も変わります。
サービスの使い方
求人の工程記載を数える作業は登録型で進められる
当サイトで整理している管理部門向けのサービスは10件で、うち2件は求人を出す企業側を対象としたものです。
求職者が使う8件のうち、会員登録から始まる登録型はMS-JapanとBEET-AGENTの2件で、どちらも対応地域は全国です。
無料相談の申込から始まる申込型はCORPOの1件で、こちらも全国が対象です。
希望する地域で経理の求人を20件ほど集め、担当する工程が具体的に書かれているものが何件あるかを数えます。
「経理業務全般」とだけ書かれた求人が多いのか、工程が明記された求人があるのかで、比較のしやすさが変わります。
登録だけで進める方法は管理部門は登録だけで転職できる?にまとめています。
体制を聞く段階では面談実施型が向く
面談実施型は5件で、WARC AGENT、ユメキャリ就職エージェント、ユメキャリ転職エージェント、大手企業人事が転職をサポート/ユメキャリ転職エージェント、法務部特化型の転職・求人情報なら/BEET-AGENTが該当します。
ユメキャリの3件は対応地域が全国、WARC AGENTは希望勤務地が東京・神奈川・埼玉・千葉・兵庫・大阪・京都・愛知の場合が対象とされています。
人数、承認の流れ、引き継ぎの有無は、いずれも求人票に書かれていない項目です。
求人を日常的に扱っている相手に直接尋ねられる点が、面談を伴う形の利点になります。
時期の決め方は経理の転職に適した時期はある?、職務ごとの求人の読み方は経理・人事・総務、転職の探し方は違う?で扱っています。
まとめ
- 経理担当者の50.1%が人手不足を感じており(うち85.2%が深刻)、要因の最多は採用できないこと
- 一人で担う体制は方針というより、採用の結果として生まれている場合がある
- 処理と確認を分ける前提が成立しないため、これは能力ではなく体制の問題として扱う
- 一方で工程を通して担当するため、業務範囲の広さは書類の材料になる
- 「経理業務全般」ではなく、工程・主担当か補助か・扱ってきた規模を分けて書く
- 次の職場では人数だけでなく、承認の流れと引き継ぎの有無を確認する
- 委託範囲が広いほど負担は軽く、社内に残る経験の幅は狭くなるという関係がある
- 工程の記載を数える作業は登録型で進め、体制の実態は面談実施型で聞く



