税理士事務所や会計事務所に応募するとき、志望動機を1つ作ってすべての応募先に使い回すと、通りにくい場所が出てきます。
同じ業界の中でも、規模によって求められる人物像が反対を向いているためです。

この記事は、応募先の規模ごとに志望動機の中身をどう変えるかを扱います。
そもそも未経験から事務所に入れるのかという入口の話は未経験から士業事務所に入れる?、経験がどう扱われるかは税理士の転職で見られる経験は何かで扱っており、この記事はその先の書類に何を書くかに絞ります。

事務所の規模で、求められる人物像が逆を向く

規模が大きいほど分業が進む

複数の税理士が所属する税理士法人では、法人税、相続、資産税、組織再編、国際税務といった分野ごとに担当が分かれていることがあります。
1人が担当する範囲は狭くなり、そのぶん深さが求められます。

一方、所長と数名で運営している個人事務所では、記帳から申告、相続の相談、顧問先の経営に関する話まで、1人が扱う範囲が広くなります。
同じ業界の中で、専門を深める方向と幅を広げる方向が並んでいるという状態です。

同じ文章を両方に出すと、どちらにも届かない

この構造があるため、「相続分野を専門的に極めたい」という志望動機は、相続に特化したチームを持つ事務所には響きますが、あらゆる相談が持ち込まれる個人事務所には届きません。
逆に「幅広い業務に携わりたい」は、分業体制の事務所では「うちでは狭い範囲を担当してもらう」という説明が返ります。

どちらが優れているという話ではありません。
応募先がどちらの方向にあるかを先に判定するという作業が要る、ということです。
判定の材料は求人票の業務内容の欄と、事務所の公開情報にあります。

判定は所属人数と業務の並べ方で行う

求人票に所属する税理士の人数や部門の名称が書かれていれば、分業の度合いがそこから読み取れます。
業務内容が「法人税務、相続税務、組織再編支援」のように分野で並んでいれば専門分化の方向、「記帳代行から申告書作成、顧問先への訪問まで」のように工程で並んでいれば幅の方向です。

記載がない場合は、そのまま面談で確認する項目として残しておきます。
判定を誤ったまま書類を出すと、内容そのものは正しくても応募先とずれた文章になります。

税理士法人に出す志望動機

分野を名指しする

規模の大きい事務所に出す志望動機では、関心のある分野を具体的に挙げます。
「税務全般に興味がある」ではなく、法人税務、相続・資産税、組織再編、国際税務、事業承継のうちどれかを名指しします。

名指ししたうえで、その分野に関心を持った理由を自分の経験から書きます。
前職で担当した顧問先の業種、扱った申告の種類、関わった案件の規模が材料になります。
分野名と自分の経験が対応している状態を作るのが、この規模への応募での中心です。

分業の中で働くことをどう捉えているか

分業体制では、案件の一部を担当し、レビューを受け、次の工程に渡すという進み方になります。
1人で完結させる働き方に慣れている場合、この形をどう捉えているかが読まれます。

書く材料としては、複数人で案件を進めた経験、チェックを受ける立場での仕事の進め方、期限が重なる時期の優先順位のつけ方があります。
担当範囲が狭くなることを制約ではなく前提として書けているかどうかで、書類の印象が変わります。

規模の大きい事務所ほど、応募者が並ぶ

分野を絞って書くと、同じ分野を志望する他の応募者と並びます。
そこで差がつくのは動機の言葉づかいではなく、対応する経験の中身です。
担当した顧問先の業種と規模、扱った工程、自分が判断した範囲を書き出しておきます。

経験の書き出し方は税理士の転職で見られる経験は何かで扱っており、範囲と規模の単位で書く方法を整理しています。

個人事務所・小規模事務所に出す志望動機

幅を引き受ける姿勢を書く

小規模な事務所では、担当する業務が事前に固定されていないことがあります。
記帳の確認から申告、相談対応、場合によっては事務所の運営に関わる作業まで含まれます。

志望動機では、この幅を引き受ける意思を示します。
ただし「何でもやります」だけでは経験の説明になりません。
これまでに複数の工程をまたいで担当した場面を1つ挙げ、そのときにどう対応したかを書きます。

顧問先との距離をどう捉えているか

小規模な事務所では、担当者が顧問先と直接やり取りする場面が多くなります。
経営者から税務以外の相談が持ち込まれることもあり、対応の姿勢が問われます。

書ける材料は、顧問先との面談の頻度、相談を受けた内容の範囲、税務以外の質問にどう対応してきたかです。
「顧客に近い立場で働きたい」という一文だけで終わらせず、近い距離で何をしてきたかを続けます。

若手層が薄いという業界の構成も背景になる

税理士の登録者数は2026年6月末時点で82,297人で、年齢構成は60代以上が53.6%を占める一方、20代は0.6%、30代は10.3%にとどまります(出典: career-adv.jp)。

この構成は、小規模な事務所で早い段階から幅広い業務を任される場面があることの背景として読めます。
ただし、これは業界全体の数字であり、個々の事務所の方針を示すものではありません。
志望動機の中でこの数字を根拠に自分の役割を断定すると、実態とずれる可能性があります。

規模で逆になる観点を一覧にする

観点 税理士法人など規模の大きい事務所 個人事務所・小規模事務所
動機の中心 分野を名指しした専門性への志向 業務の幅を引き受ける姿勢
書き出す経験 特定分野での担当工程と案件の規模 複数工程をまたいだ対応の場面
働き方への理解 分業とレビューの中で進めること 顧問先と直接向き合うこと
避けたい書き方 幅広く経験したい 特定分野だけを深めたい

同じ経歴でも、左と右で前面に出す部分が変わります。
書類の骨格を1つ作っておき、この列に合わせて入れ替えるという運用にすると、応募のたびに書き直す必要がなくなります。

資格の進捗は動機と分けて書く

到達点と予定を別々に書く

科目合格の段階にある場合、合格した科目と、次に受験する予定を分けて書きます。
「勉強中」とだけ書くと、現在地が読み取れません。

税理士試験の受験者数は令和6年度に4年連続で増加した一方、合格率は16.6%と前年の21.7%から低下しています(出典: 日税ジャーナルオンライン)。
科目合格の段階にいる人は業界内に一定数いるため、合格科目を書くだけでは他の応募者と区別がつきません。
実務でどこまで担当してきたかを併記します。

資格の進捗を志望動機の主題にしない

「資格取得を目指しているため、実務経験を積める環境を探している」という書き方は、応募先を自分の学習環境として位置づけた文章になります。
学習の予定は事実として書き、志望動機の中心には業務の話を置きます。

資格を取り終える前の段階でサービスを使えるかどうかは資格取得前でも転職エージェントは使える?で扱っています。

税務以外の士業事務所に応募する場合

資格ごとに扱う業務が違う

士業・会計というくくりには、税理士事務所のほかに、法律事務所、司法書士事務所、行政書士事務所、社会保険労務士事務所が含まれます。
それぞれ独占業務が定められており、日々の業務も違います。
資格ごとの区分は税理士・会計士・弁護士・司法書士の違いは?で整理しています。

志望動機を書くときは、応募先の資格領域で実際に発生する業務を名前で挙げます。
司法書士事務所であれば不動産登記、商業登記、相続に関する手続きといった単位です。
領域の名前を使えるかどうかが、その分野を調べたうえで応募しているかの手がかりになります。

補助者として応募する場合

資格を持たない立場で事務所の実務に携わる補助者という職種があります。
この立場で応募する場合、志望動機に資格取得の予定を書くことになりますが、それだけでは事務所で何をするかが空欄のままになります。

書ける材料は、前職で扱ってきた書類の種類、期限のある手続きを進めた経験、顧客とのやり取りの内容です。
司法書士の全国会員数は2026年4月時点で23,505人で、毎年約1,000人が新規登録し約700人が抹消しています(出典: サムライマガジン)。
資格者の総数が緩やかにしか増えていない領域では、資格を持たない立場での実務が事務所の運営に組み込まれている場合があります。
資格別の市場の状況は弁護士と司法書士、転職市場はどう違う?で扱っています。

監査法人や他の事務所から移る場合

「なぜ出るのか」が先に読まれる

監査法人や会計事務所からの転職では、志望動機より先に離れる理由が確認されます。
監査法人の退所想定時期は4〜5年目が最多で31%という調査があり、離れること自体は珍しい判断ではありません(出典: アカウントエージェント)。
時期の考え方は監査法人を離れるタイミングはいつかで扱っています。

同じ調査では、転職のきっかけとして「年収・待遇への不満」44.9%、「仕事内容・やりがいへの不満」43.6%、「キャリアアップ・スキルアップをしたい」40.4%が拮抗しています。
上位3つが接近しているということは、どれを書いても他の応募者と重なるということです。
理由の分類ではなく、その理由に至った具体的な状況を書くほうが情報になります。

事業会社の経理を併願する場合

事務所と事業会社の両方に応募する場合、志望動機はさらに分かれます。
事務所は複数の顧問先を担当する働き方、事業会社は1社の中で決算を作る働き方であり、書くべき経験の切り取り方が違います。

事業会社側の探し方は資格なしで経理として転職できる?で扱っています。
併願する場合は、両方に出せる文章を作ろうとせず、2種類を用意するほうが結果として早く済みます。

書く前に確認しておくこと

サービスの対象条件を先に読む

士業・会計向けのサービスには、実務経験の年数や対象年齢を条件に置いているものがあります。
条件から外れていると、書類を用意しても紹介まで進みません。
条件の内訳は士業・会計の転職は登録型が中心?で扱っています。

求人を見ながら書く

書類を先に完成させると、応募先の要件と噛み合わないことがあります。
応募したい規模の求人をいくつか読み、業務内容の欄に出てくる語を確認してから書くほうが手戻りが減ります。
手順は職務経歴書はいつ作ればよいか、業種を問わない構成と分量の考え方は転職の志望動機は何を書く?にまとめています。

書類に書いた内容は面接で掘り下げられます。
分野を名指しした場合、その分野について何を知っているかが続けて問われます。
想定される質問の型は転職面接の準備で扱っています。

まとめ

  • 士業・会計の志望動機は、応募先の規模で評価される観点が逆を向く
  • 税理士法人など規模の大きい事務所には、分野を名指しした専門性と分業への理解を書く
  • 個人事務所・小規模事務所には、業務の幅を引き受ける姿勢と顧問先との距離感を書く
  • 資格の進捗は動機と混ぜず、合格科目と受験予定を分けて事実として書く
  • 税務以外の士業事務所では、その資格領域で発生する業務の名前を使って書く
  • 監査法人からの転職は、離れる理由の分類ではなく具体的な状況を書く
  • 事務所と事業会社を併願する場合は、志望動機を2種類用意する