税理士事務所や会計事務所で働いていると、「転職するなら繁忙期を避けたほうがよい」という話を耳にします。
ただし、繁忙期がいつなのかは事務所によって少しずつ違い、その理由まで整理されることはあまりありません。
会計事務所の忙しさは、法律で定められた申告や提出の期限に沿って動きます。
ここでは期限の構造を押さえたうえで、自分の担当と応募先の両方から時期を判断する手順を扱います。
会計事務所の繁忙は法定の期限で決まっている
所得税の確定申告は期間が定められている
所得税の確定申告は、原則として2月16日から3月15日までの期間に行うこととされています(国税庁が案内している申告の期間による)。
期限の日が土日や祝日に当たる場合は、翌開庁日に繰り下げられます。
この期間は事務所側の都合で動かせません。
顧問先が個人事業主を多く含むほど、この時期に業務が集中します。
加えて、個人事業者の消費税の申告期限は3月末とされており、3月に入ってからも作業が続く構造になっています。
1月にも提出期限が集中している
繁忙期を確定申告の1か月間だけと捉えると、実態から外れます。
1月には、給与所得の源泉徴収票などの法定調書の提出、市区町村への給与支払報告書の提出、償却資産の申告といった期限が集中しています。
いずれも1月末が期限とされているものです。
さらにその前月には年末調整の作業があります。
つまり、12月から3月にかけては、期限の異なる作業が途切れずに続く期間です。
「繁忙期は2月から3月」という言い方は、この前半部分を落としています。
期限があるから時期がずれない
会計事務所の忙しさが読みやすいのは、根拠が法定の期限にあるためです。
景気や求人動向のような変動要因ではなく、毎年ほぼ同じ時期に同じ作業が来ます。
裏を返せば、この期間に転職活動の時間を確保するのが難しいことも、あらかじめ分かっているということです。
予測できる負担は、予測できる前提で日程を組むほうが現実的です。
「繁忙期明けが動きやすい」と言い切れない理由
法人の申告期限は決算月の2か月後にくる
法人の確定申告は、事業年度が終了した日の翌日から2か月以内に行うこととされています(法人税法による。
申告期限の延長に関する制度もあるため、個別の扱いは所轄の税務署や顧問先の状況によります)。
担当している顧問先に3月決算の法人が含まれていれば、その申告期限は5月末になります。
個人の確定申告が終わった直後に、3月決算法人の申告が始まるという並びです。
「4月から5月は動きやすい」という一般論が、担当によっては当てはまらないのはこのためです。
なお、国内企業の決算月がどう分布しているかについて、当サイトで根拠を確認できる集計は用意できていません。
そのため「◯月決算が多いから、この時期が繁忙期」という一般化はせず、自分の担当の構成から判断する形をとります。
顧問先の構成で山の位置が変わる
同じ会計事務所でも、担当している顧問先の決算月の分布によって、忙しい時期は変わります。
個人事業主が中心の担当であれば1月から3月に集中し、3月決算法人を多く持つ担当であれば4月から5月にも山が来ます。
決算月が分散していれば、毎月一定の作業が続く形になります。
そのため、「事務所の繁忙期」ではなく「自分の担当の繁忙期」で考えるほうが正確です。
自分が持っている顧問先の決算月を並べてみると、動ける月がどこかは自分で判断できます。
事務所の規模による業務の分かれ方は税理士事務所を辞めたいと感じたときでも扱っています。
企業の経理とは根拠の性質が違う
当サイトでは、企業の経理について「繁忙期直後が転職に適している」という説の裏づけを確認できていないという結論を経理の転職に適した時期はある?にまとめています。
企業の決算月は分散しており、求人が特定の月に増減することを示す調査も見つかっていないためです。
一方、会計事務所の繁忙期は法定の期限という確認できる根拠を持ちます。
ただしこれは、繁忙期がいつかを説明できるという意味であって、求人が増える月を示すものではありません。
この記事でも、特定の月に求人が増えるという主張はしません。
事務所と企業の仕事の違いは資格なしで経理として転職できる?で整理しています。
自分の側の条件から時期を決める
顧問先の区切りで引き継ぎ単位を考える
会計事務所の退職では、担当している顧問先の引き継ぎが必要になります。
企業の経理と違い、引き継ぎの相手が社内の後任だけでなく、顧問先との関係にも及ぶ点が特徴です。
引き継ぎに必要な期間は、担当の件数と、顧問先ごとの関与の深さによって変わります。
月次巡回を担当している先が多ければ、次の担当者と同行する期間が必要になることもあります。
これは求人側の事情ではなく、自分の職務内容から見積もれる数字です。
在職中に進めるかどうかで余裕が変わる
在職しながら進めるか、退職してから始めるかで、判断の余裕が変わります。
収入が続いている間は条件が合わなければ見送るという選択ができますが、退職後は期限が判断を左右しやすくなります。
繁忙期の最中に在職しながら活動を進めると、面談の日程が組めずに検討そのものが止まります。
面談の候補日を2つか3つ出せる状態を作れる時期かどうかを、先に見ておきます。
進め方は在職中の転職活動はどう進める?にまとめています。
入社したい時期は最初に伝える
入社時期に希望があるなら、最初に伝えておきます。
時期は紹介される求人の範囲に影響するため、後から伝えるほど調整が増えます。
決めていないのであれば、決めていないと伝えるほうが正確です。
会計事務所の場合、引き継ぎの都合で退職までに数か月を要することがあります。
応募の段階で見通しを持っておくと、選考が進んだ後の調整が減ります。
応募先の繁忙期も同時に見る
面接の日程が組める時期かを確認する
見落とされやすいのが、応募先の事務所も同じ時期に繁忙期を迎えるという点です。
両方が繁忙期であれば、面接の日程調整そのものが難しくなります。
この事情は、応募先が事務所か企業かで変わります。
企業の経理部門へ移る場合は、自分の繁忙期と相手の決算期がずれることもあります。
求人票からは読み取れないため、日程の候補を出す段階で確認する項目になります。
入社直後が繁忙期に当たる場合を想定する
入社の時期が繁忙期の直前に重なると、業務の説明を受ける時間が十分に取れないまま作業が始まることがあります。
逆に、繁忙期が終わった直後であれば、引き継ぎと立ち上がりに時間を使える可能性があります。
どちらが良いかは事務所の体制によります。
ただし、入社日がその事務所の業務暦のどこに当たるかは、応募の段階で確認できる項目です。
入社日の決め方は入社日はどう決める?にまとめています。
求人票で確認する項目
繁忙期に関わる情報として、求人票から読み取れる項目があります。
顧問先の件数、一人あたりの担当件数、顧問先の業種と規模、月次巡回の有無、決算業務をどこまで担当するかといった記載です。
これらが書かれていれば、その事務所の業務量の見当がつきます。
書かれていない場合は、面談で確認する項目として控えておきます。
読む場所の整理は求人票のどこを読むかにまとめています。
時期の制約をサービスの使い方に反映する
求人を見る段階であれば時期を選ばない
求人の条件を眺めて相場を把握する作業は、面談の時間を必要としません。
繁忙期の最中でも進められる部分です。
当サイトで整理しているデータでは、ジャスネットキャリアが登録型で、会員登録後にプロフィールを登録するという進み方が示されています。
BEET-AGENTも登録型で、対応地域は全国です。
税理士・会計業界に絞ったものとしては、ミツプロが登録型で、対象ユーザーは24歳〜49歳、かつ税理士・税務スタッフ・会計士としての実務経験が1年以上とされています。
対応地域は全国ではなく複数の都府県に限られます。
地域の内訳は地方で税理士・公認会計士・経理の転職はできる?にまとめています。
面談を伴う形は日程の確保が前提になる
面談実施型としては、ヒュープロが対応地域は全国、ツインプロも全国で対象年齢は24歳〜49歳とされています。
ゼイキャリは対象年齢24歳〜45歳、勤務希望地は東京・神奈川・埼玉・千葉・京都とされています。
面談を伴う形では、日程を確保する必要があります。
繁忙期に複数のサービスへ同時に登録すると、連絡の管理だけで時間を取られ、検討が止まることがあります。
まず登録型で相場を見て、比較の基準ができてから面談を伴う形に進むという順番であれば、時間の使い方を自分で調整できます。
方式ごとの違いは士業・会計の転職は登録型が中心?で扱っています。
条件は登録前に読んで絞っておく
対象年齢、実務経験の年数、対応地域は、いずれも登録の前に読める条件です。
繁忙期で時間が限られている時期ほど、条件に合わないサービスへの申し込みで時間を使うのは避けたい部分です。
自分が対象に含まれるものだけを先に抜き出しておけば、動ける時期が来たときにすぐ進められます。
経験の整理の仕方は税理士の転職で見られる経験は何かにまとめています。
まとめ
- 所得税の確定申告は原則2月16日から3月15日までで、期限が法律で定められている
- 1月には法定調書・給与支払報告書・償却資産の申告といった期限が集中し、12月の年末調整から続く
- 法人の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、3月決算の顧問先なら5月末にあたる
- そのため「4月から5月は動きやすい」は担当している顧問先の構成によって当てはまらない
- 事務所の繁忙期ではなく、自分の担当している顧問先の決算月で考えるほうが正確
- 繁忙期の根拠は説明できるが、求人が特定の月に増えることを示す材料はない
- 応募先も同じ時期に繁忙期を迎えるため、面接の日程と入社日の位置を先に確認する
- 求人を見る作業は登録型で繁忙期中も進められ、面談を伴う形は日程の確保が前提になる



