内定の連絡のあとに「いつから来られますか」と聞かれて、その場で答えに詰まることがあります。
現職の引き継ぎがどれだけかかるか分からず、有給がどれだけ残っているかも把握していない状態だと、答えようがありません。

ここでは、入社日という1つの日付をどう決めるかを扱います。
書面に何が書かれるかは労働条件通知書の確認ポイント、複数の内定を比べる方法は複数の内定が出たときの比較軸にまとめています。
この記事は、日付そのものを相手と決めていく行為に絞ります。

入社日は決めるものではなく合意するもの

双方に事情がある

入社日は、企業が指定してくるものだと受け取られがちです。
実際には、採用側にも「この時期までに配属したい」という事情があり、応募者側にも「引き継ぎにこれだけかかる」という事情があります。
どちらか一方の都合だけで決まるものではありません。

したがって、交渉できるかどうかという問いへの答えは、相談の余地はあるが幅は場合による、になります。
幅がどれだけあるかは、募集の背景で変わります。

幅は募集の背景で変わる

欠員の補充で募集している場合、前任者の退職日が決まっているため、そこに合わせたいという事情が働きます。
増員で募集している場合は、期の区切りや研修の開始時期に合わせるという事情が多くなります。

この違いは求人票には書かれていないことが多く、面接や面談で確認する項目になります。
募集の背景を聞いておくと、入社日にどれだけ幅があるかを内定より前に把握できます。
求人票から読み取れる範囲は求人票のどこを読むかにまとめています。

幅が小さい場面もある

研修が期初にまとめて行われる企業や、資格の登録手続きが入社日と連動する職種では、日付が制度側で決まっていることがあります。
この場合、交渉の対象になるのは入社日ではなく、その日に間に合うかどうかです。

間に合わないと分かった時点で早く伝えるほど、採用側も次の日程を検討できます。
答えを引き延ばすことが最も選択肢を減らします。

自分側の最短日を逆算する

足すのは4つの期間

自分の側でいつから働けるかは、次の4つを足して出します。
この4つを書き出さないまま日付を答えると、後から動かすことになります。

期間 確認する場所
退職を申し出てから退職日までの期間 就業規則の退職に関する定め
引き継ぎに必要な期間 担当している業務と後任の有無
有給休暇の消化に使う日数 残日数と、消化する方針
住居や手続きに必要な期間 転居の有無、必要な届出

このうち引き継ぎだけは、相手が決まっていない段階では正確に出せません。
後任が決まっていない場合は、資料を残す作業の日数として見積もります。

法令の定めと就業規則を分けて見る

期間の定めのない雇用契約について、民法627条1項は、解約の申入れから2週間の経過によって契約が終了すると定めています。
一方、就業規則では1〜2か月前までに申し出ることと定められている企業が多くあります。

この2つは性質が違うため、分けて把握します。
実務上は就業規則の日数を前提に組み立てるほうが、引き継ぎの調整が進みます。
伝える手順は退職はどう伝える?にまとめています。
個別の事情による判断は、労働局の総合労働相談コーナーなど公的な窓口で相談できます。

有給の残日数を先に確認する

最終出社日と退職日は、有給休暇を消化すると別の日になります。
入社日の逆算では、退職日のほうを使います。

残日数が20日あれば、最終出社日から退職日までがおおむね1か月空きます。
ここを見落とすと、逆算した日付が1か月ずれます。
消化の相談の仕方は有給休暇は拒否される?にまとめています。

日付は2つ持っておく

逆算の結果として出す日付は、1つではなく2つにします。
すべてを削った場合の最短日と、無理のない希望日です。

最短日だけを伝えると、そこから前倒しを求められる余地がなくなる代わりに、引き継ぎを削る前提で話が進みます。
希望日だけを伝えると、企業側の事情と合わなかったときに次の案が出せません。
2つ持っていると、相手の事情を聞いてからどちらを出すか選べます。

いつ切り出すか

面接の段階では見込みを伝える

面接で入社可能時期を聞かれた場合、その時点では見込みを答えます。
「就業規則では1か月前までの申し出と定められているため、内定から1.5〜2か月程度を見込んでいます」という形です。

この段階で日付を確定させる必要はありません。
ただし、極端に長い見込みを答えると、選考の対象から外れることがあります。
逆に短く答えすぎると、内定後に延ばす交渉から入ることになります。

確定させるのは内定後

日付を決めるのは、内定が出て条件面の話をする場です。
ここで初めて、企業側の事情と自分側の逆算を突き合わせられます。

条件面の面談は、年収や勤務地の確認と同じ場になることが多く、入社日もその場の議題に入ります。
入社日は条件の1つであり、後から追加で相談する事項ではありません。

退職を伝える前に仮の日付を置く

順序として、入社日が決まらないうちに退職を切り出すと、引き継ぎの計画が立てられません。
かといって、退職を伝えていない段階では引き継ぎに必要な期間が確定しません。

現実的には、内定後に仮の入社日を置いてから退職を申し出て、上司との話で期間が確定した時点で入社日を確定させる流れになります。
仮の日付を置くときは、採用側に「現職と調整のうえ確定させる」と伝えておくと、後から動かす余地が残ります。

伝え方

希望日だけを伝えない

「◯月◯日を希望します」とだけ伝えると、相手には可否しか返せません。
合わなかった場合、そこで話が止まります。

伝えるのは、希望日と、その日になる理由と、自分の側で詰めた内容の3つです。
「就業規則で1か月前までの申し出と定められており、引き継ぎに3週間、有給の残日数が10日あります。これを踏まえて◯月◯日を希望しますが、有給の消化を短くすれば◯月◯日まで前倒しできます」という形であれば、相手は調整の余地がどこにあるかを把握できます。

動かせない事情は早く出す

家族の事情、住居の契約、資格の登録手続きなど、自分の努力では動かせない事情がある場合は、内定を承諾する前に伝えます。
承諾したあとで持ち出すと、条件を後出しした形になります。

事情の詳細まで説明する必要はありません。
動かせないという事実と、その期限だけを伝えれば足ります。

避けたい伝え方

いくつかの伝え方は、話を長引かせます。

  • 理由を示さずに希望日だけを伝える
  • 現職との調整がまだなのに、確定した日付として伝える
  • 決められないという理由で回答を先送りする
  • 賞与の支給日を理由として前面に出す

最後の1つは、待つこと自体が不合理なわけではありません。
ただ、理由をそのまま伝えると、金額を優先していると受け取られる場合があります。
日程の相談として伝えるほうが進みます。
賞与と日程の兼ね合いは転職と賞与のタイミングにまとめています。

サービスを介している場合

転職サービスの担当者を介して応募している場合、入社日の調整も担当者を通じて行われるのが一般的です。
直接伝えるより、間に入ってもらうほうが調整の回数が減ります。

このとき、担当者に伝えるのは希望日と最短日の両方です。
片方しか伝えていないと、企業側からの提案に対して都度確認が発生し、やり取りが増えます。

交渉が通らなかったとき

何を削るかを順に決める

企業側の日付が動かせない場合、削る対象は自分側の4つの期間のどれかになります。
優先度が低い順に見ると、有給の消化、引き継ぎの範囲、住居の手続きという並びになることが多くなります。

有給を削ると、残った日数の扱いを勤務先に確認することになります。
買い取りが行われるかどうかは企業ごとに異なり、必ず応じられるものではありません。
削れると想定して日程を組むのは避けます。

引き継ぎを削る場合の線引き

引き継ぎを短くする場合、口頭で伝える部分を資料に置き換えることになります。
担当している業務の一覧、取引先の連絡先、進行中の案件の状況を書面にすれば、対面の時間は短縮できます。

ただし、後任が決まっていない状態で期間を削ると、退職後に連絡が来ることがあります。
線引きとして、資料に残せる範囲までは削り、判断が要る業務は残すという区切りにすると、後の負担が減ります。

日付を優先して条件を落とすかどうか

どうしても合わない場合、入社日を優先して他の条件を諦めるか、条件を優先して入社日の合わない企業を見送るかという判断になります。

このとき見るのは、入社日が変えられないのが自分側か相手側かです。
自分側の事情であれば、他社の選考を進めながら日程の合う先を探せます。
相手側の事情であれば、その企業では選択肢がありません。
同時に複数社を進めている場合の整理は転職活動で何社に応募する?にまとめています。

退職日と入社日が空く場合

調整の結果、退職日の翌日に入社できないことがあります。
1日でも空くと、健康保険と年金の手続きが自分の側で必要になります。

空白を作るかどうかは日程だけで決まる話ではありませんが、空けるなら手続きが発生することは前提に入れます。
何をいつまでに行うかは退職から入社までの社会保険と年金にまとめています。

まとめ

  • 入社日は一方が決めるものではなく、募集の背景と現職の事情を突き合わせて合意するもの
  • 自分側の最短日は、申し出から退職日までの期間・引き継ぎ・有給消化・住居や手続きの4つを足して出す
  • 民法627条1項の2週間と、就業規則の1〜2か月は分けて把握する
  • 逆算では最終出社日ではなく退職日を使う。
    有給の残日数で1か月ずれることがある
  • 日付は最短日と希望日の2つを持つ。
    片方だけだと次の案が出せない
  • 面接では見込み、内定後の条件面の場で確定させる。
    入社日は条件の1つ
  • 希望日だけを伝えない。
    理由と、自分の側で詰めた内容をセットにする
  • 通らない場合は有給消化・引き継ぎの範囲の順に見る。
    買い取りを前提に組まない