「企業研究をしましょう」と書かれていても、どこまで調べれば終わりなのかは書かれていないことがほとんどです。
会社のサイトを開き、沿革を読み、事業内容を読み、それで何が分かったのかよく分からないまま閉じる、という状態になりがちです。
企業研究に終わりが来ないのは、調べる目的を決めずに始めているからです。
ここでは、転職者が何のために何を調べるのかを、段階と資料に分けて整理します。
転職の企業研究は新卒とは出発点が違う
新卒は業界から、転職は自分の経験から
新卒の就職活動では、働いた経験が無いところから始まるため、業界の全体像を眺めて興味の方向を探す進め方になります。
何が向いているか分からない状態から絞り込んでいく作業です。
この段階の進め方は就活の軸が決まらないときは?で扱っています。
転職では前提が変わります。
すでに担当した業務があり、扱った規模があり、身につけた手順があります。
したがって最初に見るのは業界の一覧ではなく、自分の経験がどの業界で必要とされているかです。
順番が逆になります。
調べる目的は3つに分かれる
企業研究という言葉は、性質の違う3つの作業をまとめて指しています。
分けておくと、どこまでやればよいかが決まります。
| 目的 | 調べること | 終わりの目安 |
|---|---|---|
| 応募するかどうかを決める | 事業の内容、募集の背景、条件 | 応募する/しないを言える |
| 志望動機を書く | 自分の経験と接点のある事業や課題 | 他社に差し替えられない一文が書ける |
| 面接で質問する | 資料に書かれていなかった箇所 | 質問が3つ以上出る |
同じ会社を調べていても、この3つは見る場所が違います。
全部を一度にやろうとすると、どれも中途半端になります。
時間配分を先に決める
企業研究に終わりが来ないもう1つの理由は、時間の上限を決めていないことです。
段階ごとに使う時間を先に切っておくと、調べ足りない箇所も調べすぎている箇所も見えます。
目安として、全体像の把握に2〜3時間、候補の絞り込みに3〜5時間、応募する企業の精査に10時間以上という配分になります。
最も時間をかけるのは応募先の精査で、全体像の把握はその入口に過ぎません。
ここが逆になると、たくさん読んだのに応募先については何も分からない、という状態になります。
段階1:業界の全体像をつかむ
使う資料
この段階で使うのは、業界を横に並べて見られる資料です。
書店で手に入る業界地図の類、上場企業の情報をまとめた会社四季報、業界団体が公表している統計や白書が該当します。
官公庁の統計も使えます。
所管の省庁が業界ごとに市場規模や事業所数を公表していることがあり、民間の記事より数字の出どころがはっきりしています。
数字を引くときは、その数字が何年のものかを一緒に控えます。
見るのは規模ではなく「何で稼いでいるか」
全体像の段階で企業名を覚える必要はありません。
見るのは、その業界がどこからお金を受け取っているかという構造です。
一般の消費者から受け取るのか、企業から受け取るのか、行政から受け取るのか。
取引先が1社に偏っているのか分散しているのか。
この構造が、働き方や忙しさの波にそのまま表れます。
年度末に集中する仕事なのか、通年で平準化されているのかは、収益の出どころから推測できます。
この段階では絞らない
2〜3時間で全部の業界を理解することはできません。
ここでの成果は理解ではなく、次の段階で見る候補を3〜5つ挙げられる状態になることです。
興味の有無で選んでも構いませんが、自分の経験が使えそうかという観点を1つ入れておくと、次の段階が短くなります。
段階2:候補を3〜5業界に絞る
絞る基準は「自分の経験が条件になっているか」
絞り込みは、求人を見ながら行います。
候補に挙げた業界で、自分の職種の求人を検索し、応募要件の欄を読みます。
見るのは「必須」の欄に自分の経験が書かれているかどうかです。
書かれていれば、その業界ではその経験が値段の付く要素として扱われています。
書かれていなければ、経験そのものは評価されても、選考で優先される材料にはなりにくいということです。
応募要件の読み方は求人票のどこを読むかにまとめています。
求人の件数と条件の幅で確かめる
同じ職種でも、業界によって求人の件数と条件の幅は違います。
件数が少なければ、その業界での転職は時期に左右されます。
条件の幅が広ければ、経験年数や担当範囲によって扱いが大きく変わるということです。
10件ほど並べれば傾向は見えます。
この作業は転職するかどうかを決めていない段階でもできます。
進め方は転職するか迷っている段階では何をする?で扱っています。
業界研究と企業研究の境目
3〜5業界まで絞れたら、業界を調べる作業はいったん終わりです。
ここから先は個別の企業を見ます。
境目が分かりにくくなるのは、業界の話と企業の話を行き来しているときです。
業界の話は「どこを受けるか」を決めるため、企業の話は「そこで何を話すか」を決めるためという区別にしておくと、戻る必要があるかどうかを自分で判断できます。
段階3:応募する企業を1社ずつ調べる
上場企業は公開資料が読める
上場している企業であれば、有価証券報告書が金融庁の開示システム(EDINET)で公開されています。
決算短信や決算説明資料は、企業自身のサイトのIR欄に置かれています。
有価証券報告書で見る箇所は限られます。
事業の内容、対処すべき課題、従業員の状況の3つです。
従業員の状況の欄には、従業員数と平均勤続年数、平均年齢が記載されます。
平均勤続年数が短い企業では、人の入れ替わりが起きているという事実だけは読み取れます。
理由までは書かれていないため、そこは質問に回します。
決算資料と求人票を突き合わせる
決算説明資料には、力を入れている事業と、その理由が書かれていることがあります。
ここで拡大すると書かれている領域と、求人票に書かれた募集職種が一致していれば、その募集は増員である可能性が高くなります。
一致していなければ、なぜその職種を募集しているのかが分かりません。
募集の背景が増員なのか欠員の補充なのかは求人票に書かれないことが多く、資料と求人票のずれは、そのまま質問の候補になります。
非上場企業で読めるもの
非上場であっても、確認できる範囲はあります。
企業のサイトに載っている取引先や導入事例、プレスリリース、採用ページの募集職種の一覧です。
募集職種の一覧は特に手がかりになります。
同時にどの職種を何人募集しているかが分かれば、いま人を増やしている部門が見えます。
特定の部門だけを長期間募集し続けている場合、そこで何が起きているかは面接で確認する項目になります。
求人以外の情報源
業界の専門メディアやニュースの検索も使えます。
直近1年程度の記事を見ると、その企業が外に向けて何を発表しているかが分かります。
一方、匿名の口コミは扱いに注意が要ります。
書いた人の在籍時期も部門も分からないため、事実として扱えません。
書かれている内容を確認する質問に変換するという使い方であれば、材料として機能します。
社風は資料からは読み取れない
企業研究で最後まで埋まらないのが、実際に働いている人の様子です。
理念やカルチャーのページは、企業が示したい姿であって運用の実態ではありません。
ここは面接で聞くか、面談を伴うサービスの担当者が持っている情報に頼ることになります。
担当者は複数の応募者を送り込んだ経緯を持っているため、選考の傾向や部門ごとの様子を把握していることがあります。
サービスの方式の違いは登録型と面談型の転職サービス、どちらを選ぶ?にまとめています。
調べた内容をどこに使うか
志望動機に使えるのは接点だけ
調べたことを全部書くと、志望動機が会社紹介になります。
読む側はその会社の人であり、事業内容の説明は必要としていません。
使えるのは、調べた事実と自分の経験が接している箇所だけです。
「この領域を拡大していると書かれていた」という事実に、「自分は前職でその領域の何を担当した」という経験を接続します。
他社に差し替えられる文章になっていれば、接点が見つかっていないということです。
書き方は転職の志望動機はどう書く?で扱っています。
逆質問に使う
調べて分からなかった箇所は、そのまま面接での質問になります。
調べれば分かることを質問すると、調べていないことが伝わるため、質問の質は事前に調べた量で決まります。
質問の形にするときは、根拠を先に置きます。
「決算資料でこの事業を拡大すると拝見しましたが、この職種はその体制強化にあたるものでしょうか」という形であれば、確認したい内容がはっきりします。
使わなかった情報も残す
調べたことの大半は志望動機にも質問にも使いません。
それでも、内定が出たあとの比較で効いてきます。
事業の構造、収益源の偏り、従業員数の推移は、複数の内定を比べるときの材料になります。
応募の段階で作ったメモを残しておくと、比較の表を作り直さずに済みます。
比較する項目は複数の内定が出たときの比較軸にまとめています。
まとめ
- 転職の企業研究は業界の一覧からではなく、自分の経験がどの業界で必須要件になっているかから始める
- 目的は3つ(応募の判断/志望動機/質問)に分かれ、見る場所が違う
- 時間配分は全体像2〜3時間、絞り込み3〜5時間、応募先の精査10時間以上を目安にする
- 全体像の段階で見るのは規模ではなく、どこからお金を受け取っている業界かという構造
- 上場企業は有価証券報告書と決算資料が読める。
事業の内容・対処すべき課題・従業員の状況の3か所で足りる - 決算資料と求人票のずれは、そのまま募集の背景を確かめる質問になる
- 社風と運用の実態は資料に出ない。
面接か、面談を伴うサービスの担当者に回す



