内定が出たあと、入社日までの間に労働条件通知書という書面を受け取ります。
分量が多く、届いた時点で気持ちが入社に向いていることもあって、ざっと目を通して保管するだけになりがちな書類です。
ただ、この書面は求人票でも面接での説明でもなく、これから結ぶ契約の内容を示すものです。
ここでは、何が書かれるのか、どこでズレが起きるのか、気づいたときにどう進めるのかを整理します。
労働条件通知書とは何か
労働条件を明示する義務が定められている
労働基準法では、使用者が労働契約を結ぶ際に、労働者へ労働条件を明示することが義務づけられています。
このうち一定の事項については書面を交付して明示することとされており、労働者が希望した場合は電子メールなど書面以外の方法も認められています。
つまり、労働条件通知書は企業の好意で出されるものではなく、法令に基づいて示されるものです。
受け取っていない場合は、企業に確認する立場に立てます。
雇用契約書との違い
労働条件通知書は、使用者から労働者へ条件を通知する書面です。
これに対して雇用契約書は、双方が内容に合意したことを示すために署名や記名押印を交わす書面です。
両方をまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で交付されることもあります。
署名を求められる書面かどうかで扱いが変わるため、渡された書面がどちらなのかを確認します。
電子で受け取る場合の扱い
書面の交付が原則ですが、労働者が希望した場合には、電子メールなど書面以外の方法による明示も認められています。
この場合、受け取った側が出力して書面を作成できる形であることが前提とされています。
添付ファイルではなく本文に書かれていた、画面でしか見られない形式だったといったときは、印刷できる形での送付を依頼できます。
あとから見返せる状態にしておくことが、この書面の役割につながります。
いつ受け取るか
交付の時期は企業によって差があります。
内定の連絡と同時に届く場合もあれば、入社日の直前になる場合もあります。
入社の直前に受け取ると、内容を確認して交渉する時間が残りません。
内定を承諾する前に条件を書面で示してもらえるかを聞いておくと、判断の材料がそろった状態で決められます。
複数社を比べている段階であれば、この点はとくに重要です。
比較の進め方は複数の内定が出たときの比較軸にまとめています。
書面で示される項目
明示が必要な事項には2つの区分がある
労働基準法とその施行規則では、明示すべき事項が2つに分けられています。
契約を結ぶ際に例外なく明示するものと、企業がその定めを設けている場合に明示するものです。
前者には、契約の期間、就業の場所と従事する業務、労働時間や休日に関する事項、賃金に関する事項、退職に関する事項が含まれます。
後者には、退職手当、賞与などの臨時に支払われる賃金、安全衛生、災害補償、表彰と制裁といった事項が挙げられます。
手当や賞与の記載が無い場合、その定め自体が置かれていない可能性があります。
項目の一覧は厚生労働省が公表している資料で確認できます。
契約期間と就業場所・業務
契約に期間の定めがあるかどうかが最初に書かれます。
期間の定めがある場合は、更新の有無やその基準についても示されます。
有期の契約については、更新の上限や無期転換に関する事項も明示の対象に加えられています。
就業の場所と従事する業務も明示の対象です。
近年の改正により、雇入れ直後の内容だけでなく、変更の範囲もあわせて明示することとされました。
転勤や職種変更の可能性がどこまであるのかが、この欄から読み取れます。
労働時間と休日
始業と終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇が示されます。
交替制で働く場合は、就業時転換に関する事項も含まれます。
固定残業代が設定されている場合、その金額と何時間分に相当するのかが記載されます。
基本給と固定残業代を合算した金額だけを見ていると、実際の基本給を読み違えます。
賃金と退職に関する事項
賃金については、決定や計算の方法、支払いの方法、締切日と支払日が示されます。
昇給に関する事項も明示の対象ですが、書面での交付が求められる項目からは除かれています。
退職に関する事項も明示の対象で、解雇の事由もこれに含まれます。
退職を申し出る場合の手続きがどうなっているかも、この欄に書かれることがあります。
短時間・有期で働く場合は項目が加わる
パートタイム・有期雇用労働法では、短時間労働者と有期雇用労働者に対して、労働基準法で定められた事項に加えて明示すべき事項が定められています。
昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口の4つです。
「有無」を示すことが求められている点が要点です。
あるかないかがはっきり書かれるため、書面を見れば制度の存在を確認できます。
正社員以外の形で働く場合の条件の見方は正社員以外(契約・派遣)で探す選択肢にまとめています。
求人票や面接の話と食い違うことがある
求人票は募集の条件であって契約の内容ではない
求人票に書かれている給与や勤務地は、募集の段階で示された条件です。
実際の契約の内容は、選考を経て個別に決まります。
求人票の年収が幅で書かれていた場合、その中のどこに位置づけられるかは提示を受けるまで分かりません。
したがって、求人票と通知書の内容が違うこと自体は、必ずしも不正な扱いを意味しません。
確認すべきなのは、違っている理由の説明を受けているかです。
ズレが起きやすい箇所
食い違いが見つかりやすいのは、給与の内訳、就業場所、雇用形態、賞与の扱いです。
面接では「基本的に転勤はない」と聞いていたのに、書面では変更の範囲が広く書かれている、といった形で表れます。
固定残業代も差が出やすい箇所です。
提示された年収に何時間分が含まれているかを面接で聞いていなかった場合、書面で初めて把握することになります。
口頭の説明は記録に残らない
面接や面談で聞いた内容は、あとから確認する手段がありません。
「そう聞いた」「そうは言っていない」という形になると、書面に書かれた内容が優先されます。
そのため、選考の過程で条件に関する説明を受けたら、その場でメモに残しておきます。
日付と誰から聞いたかまで書いておくと、確認するときに具体的に切り出せます。
ズレに気づいたときの進め方
受け取ったらまず突き合わせる
書面が届いたら、応募したときの求人票と、面接で聞いた内容のメモを横に並べます。
この3つを同時に見ないと、どこが違うのかを特定できません。
見る順序を決めておくと短時間で済みます。
就業の場所と業務、契約の期間、労働時間と休日、賃金の内訳、退職に関する事項の順に、一項目ずつ照らします。
違いが見つかった箇所には印を付け、そのまま質問の一覧にします。
求人票の読み方は求人票のどこを読むかにまとめています。
入社前に確認する
内容に疑問がある場合、入社してから調整するより、書面を受け取った段階で確認するほうが早く片づきます。
入社後は既に契約が成立しているため、話の性質が変わります。
確認するときは、感情ではなく事実で切り出します。
「◯月◯日の面接で△△と伺いましたが、書面では□□となっています。認識を合わせたいのですが」という形であれば、事実の照合として扱われます。
誰に、どう聞くか
窓口は、書面を送ってきた担当者にあたる人事の担当者です。
転職サービスを介して応募している場合は、担当者に間に入ってもらう方法もあります。
直接聞きにくい内容ほど、間に人が入ると進みやすくなります。
確認のやり取りはメールなど記録の残る手段で行います。
電話で話した場合も、内容を要約したメールを送って残しておくと、あとから参照できます。
聞く内容は一度にまとめます。
項目ごとに連絡を分けると、やり取りの回数が増えて入社日までの時間を使い切ってしまいます。
書面の該当箇所を引用し、疑問点を番号で並べた形にすると、相手も一度に回答できます。
明示された条件と事実が違った場合
労働基準法では、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができるとされています。
入社後に条件が書面と違うと分かったときの選択肢の一つになります。
判断に迷う場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや労働基準監督署といった公的な窓口で相談できます。
個別の事情によって扱いは変わるため、記事の一般論ではなく窓口で確認してください。
受け取ったあとにやること
保管しておく
労働条件通知書は、入社後に条件を確認する必要が生じたときの根拠になります。
紙で受け取った場合も、撮影するなどして手元に残る形にしておきます。
電子データで受け取った場合は、会社のアカウントではなく個人が管理できる場所に保存します。
退職後に見返す可能性があるためです。
就業規則も確認する
通知書に書かれるのは個別の労働条件です。
休暇の取得方法や手当の支給条件といった細かい運用は、就業規則に定められていることがあります。
就業規則は、労働者が見られる状態にしておくことが求められています。
入社後にどこで閲覧できるかを確認しておくと、疑問が出たときに自分で調べられます。
入社前後の動き方は在職中の転職活動はどう進める?も参考になります。
入社の手続きで求められる書類をそろえる
書面と前後して、入社の手続きに必要な書類の案内が届きます。
雇用保険の被保険者証、基礎年金番号が分かるもの、前の勤務先が発行する源泉徴収票、扶養する家族に関する書類などが挙がることが一般的です。
このうち源泉徴収票は、退職後に前の勤務先から交付されるものです。
手元に届く時期が入社日より後になることもあるため、いつ提出できるかを新しい勤務先に伝えておきます。
前の勤務先から受け取る書類が何かを退職前に確認しておくと、あとから連絡を取り直す手間が減ります。
まとめ
- 労働条件通知書は、法令に基づいて示される書面である
- 就業場所と業務は、変更の範囲もあわせて明示することとされている
- 求人票は募集の条件であり、契約の内容は書面で確定する
- ズレに気づいたら入社前に、記録の残る手段で事実を照合する
- 短時間・有期で働く場合は、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口も明示の対象
- 判断に迷う場合は、労働局や労働基準監督署の窓口で相談できる



