転職先が決まっても、いまの職場に伝えるところで手が止まることがあります。
誰に、いつ、どう言えばよいのか。
引き止められたらどうするのか。
この部分だけは求人票にも面接対策にも書かれていません。
ここでは、退職を伝える前の準備から、引き止めにあったときの対応、退職日までに残る作業までを、実務の手順として整理します。
職場を離れる人は毎年700万人以上いる
離職そのものは例外的な行動ではない
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、2024年の離職者数は約719.5万人、離職率は14.2%でした(出典: 厚生労働省「令和6年雇用動向調査」)。
率で見れば、1年間に職場を離れる人は7人に1人程度です。
受け取る側にとっても、退職の申し出は初めて聞く話ではありません。
この前提を置いておくと、切り出す場面の心理的な重さが少し変わります。
辞める理由の上位は条件面と関係性に分かれる
同じ調査で、転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由・その他の理由を除く)を見ると、男性は「定年・契約期間の満了」14.1%が最多、女性は「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%が最多でした。
上位には「職場の人間関係が好ましくなかった」も入っています(出典: 同調査)。
この分類は、伝え方にも関わります。
理由が条件面にある場合、引き止めで条件の提示が返ってくることがあります。
理由が関係性にある場合、条件を提示されても解決しません。
自分の理由がどちらに近いかを先に整理しておくと、引き止めへの返答を考えやすくなります。
伝える前に決めておくこと
転職先の入社日を先に確定させる
退職日は、次の入社日から逆算して決まります。
入社日が確定していない段階で退職を伝えると、引き継ぎの計画も休暇の消化も組めません。
内定が出た段階で、入社日をいつにするかを次の勤務先と話し合います。
ここで余裕を持たせておくと、引き継ぎが想定より長引いた場合にも調整できます。
複数の内定を比べている段階であれば、入社日も比較の項目に入れます。
項目の立て方は複数の内定が出たときの比較軸にまとめています。
就業規則の退職に関する定めを読む
いま在籍している会社の就業規則には、退職を申し出る時期や手続きの流れが定められていることがあります。
まずここを読みます。
就業規則は、労働者が見られる状態にしておくことが求められています。
どこで閲覧できるかが分からない場合は、人事部門に確認できます。
定めを読まずに日程だけ決めると、後から調整し直すことになります。
法律上の期間と就業規則の日数は別に見る
期間の定めのない雇用契約、いわゆる正社員などの契約については、民法第627条第1項に定めがあります。
当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、解約の申入れの日から2週間を経過することによって雇用契約が終了するという内容です(出典: 民法第627条第1項(e-Gov法令検索))。
退職の自由を保障する趣旨の規定とされています。
起点になるのは申入れであり、会社が同意しなかったという理由だけで退職が成立しなくなるわけではありません。
就業規則に「1ヶ月前までに申し出ること」と書かれていても、法律が求める期間は2週間です。
ただし、これは2週間で辞めるのが望ましいという話ではありません。
引き継ぎの相手を決めるにも、有給休暇を消化するにも、退職日までの日数を使います。
実務としては就業規則の定めに沿って早めに申し出るほうが、日程の相談は進めやすくなります。
法律上の期間と、実務で必要になる日数は別のものだと考えて、両方を並べて退職日を決めます。
契約の形態や個別の事情によって扱いが変わることもあります。
判断に迷う場合は、後述の公的な窓口で相談できます。
伝える相手と順番を決める
最初に伝えるのは、原則として直属の上司です。
同僚や他部署の人に先に話が伝わると、上司が人づてに知る形になり、その後のやり取りが進みにくくなります。
人事部門への連絡は、上司との話が済んだ後になるのが一般的です。
順番を決めておくだけで、余計な説明の手間が減ります。
切り出す時期を決める
繁忙期の真ん中を避ける、期の区切りに合わせる、といった配慮が可能な場合はしておくと進みやすくなります。
ただし、これは調整できる範囲での話です。
配慮が難しい場合でも、伝えないまま先延ばしにするほうが影響は大きくなります。
入社日が決まっているなら、そこから逆算して切り出す日を決めます。
在職しながら活動を進める場合の段取りは在職中の転職活動はどう進める?にまとめています。
伝え方の実務
時間を取ってもらってから話す
立ち話や業務の合間ではなく、時間を取ってもらってから話します。
「ご相談したいことがあるので、15分ほどお時間をいただけますか」といった形で、先に枠を確保します。
場所も、他の人に聞こえない場所を選びます。
会議室が取れない場合はオンラインでも構いません。
オンラインで話す場合の準備はオンライン面談の準備も参考になります。
相談ではなく決定として伝える
言い方の問題ではなく、内容の問題です。
「辞めようか迷っている」と切り出すと、話は相談として扱われ、引き止めの余地が生まれます。
「◯月末で退職したいと考えています」と、時期を含めて伝えます。
決定として伝えたうえで、引き継ぎの相談に入るという順序にすると、話が長引きにくくなります。
理由は短く述べ、現職の不満を並べない
理由を詳しく説明する必要はありません。
長く話すほど、反論できる箇所が増えます。
現職の不満を並べる説明も避けます。
改善の提案として受け取られ、条件の見直しという形で引き止めに転じることがあります。
次にやりたいことを軸にした説明であれば、現職の側で対応できる話ではなくなります。
退職願と退職届は役割が違うとされる
一般的な実務では、退職願は退職したい旨を申し出る書面、退職届は退職することを届け出る書面として使い分けられています。
会社によって様式や提出先が定められていることもあります。
どの書面をいつ出すかは、就業規則や人事部門の案内に従います。
書面の様式が指定されている場合は、それに合わせるのが確実です。
引き止めにあったときの対応
引き止めの型はおおむね決まっている
引き止めで返ってくる内容は、いくつかの型に分かれます。
条件を見直すという提案、時期をずらしてほしいという依頼、後任が決まるまで待ってほしいという依頼、そして次の職場に対する否定的な見立てです。
型があらかじめ分かっていれば、その場で考え込まずに済みます。
返答を準備しておくのは、感情的なやり取りを避けるためです。
条件を提示された場合の考え方
給与や役割の見直しを提案された場合、まず確認するのは、それが自分の辞める理由に対応しているかどうかです。
理由が条件面にあったなら検討の余地がありますが、理由が別のところにあるなら解決しません。
もう1つ確認するのは、提示された条件がいつから、どういう形で実施されるかです。
口頭の説明は記録に残りません。
書面で示されない条件を前提に判断すると、後から食い違いが起きます。
書面での確認の仕方は労働条件通知書の確認ポイントにまとめています。
その場で結論を出さず、期日を決める
引き止めにあったとき、その場で回答する必要はありません。
ただし、期日を決めずに保留にするのも避けます。
宙に浮いた状態が続くと、次の勤務先との調整が進まなくなります。
「明後日までに回答します」と期日を切って、いったん持ち帰ります。
持ち帰った後に、辞める理由と提示された内容を並べて判断します。
時期をずらしてほしいと言われた場合
後任が決まるまで、あるいはプロジェクトが終わるまで待ってほしい、という依頼が返ってくることがあります。
この場合に確認するのは、いつまでなのかが具体的に示されているかです。
「落ち着くまで」「後任が見つかるまで」という言い方では、期限が決まりません。
次の入社日が動かせない場合は、その日付を伝えたうえで、そこまでに何を引き継げばよいかの相談に切り替えます。
期限のない延期は、引き受けても実行できません。
感情的なやり取りにしない
引き止めが強い場合でも、応酬にしないほうが後が楽になります。
前の職場の人と、次の職場や取引先で再び関わることがあります。
伝えるのは事実と決定だけで足ります。
相手の言い分を否定する必要はありません。
受け止めたうえで、決定は変わらないことを短く繰り返します。
話が進まない場合は記録を残す
退職の申し出を受け付けてもらえない、話し合いが繰り返されるだけで進まないという場合は、いつ誰に何を伝えたかを記録します。
日付と相手と内容を残しておくと、後から具体的に切り出せます。
やり取りをメールなど記録の残る手段に移すことも有効です。
個別の事情によって扱いは変わります。
判断に迷う場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや労働基準監督署といった公的な窓口で相談してください。
自分で伝えることが難しい場合の手段は転職エージェントと退職代行は何が違う?で扱っています。
退職日までに残る作業
引き継ぎの範囲を書き出す
伝えた後にやることの中心は引き継ぎです。
担当している業務を一覧にし、それぞれについて手順・関係者・期限・注意点を書き出します。
口頭だけの引き継ぎは、抜けが出ます。
書面にしておくと、後任が決まっていない段階でも渡せる状態になります。
この一覧は自分の職務経歴の材料にもなります。
書き出す順序は職務経歴書はいつ作ればよいかにまとめています。
有給休暇の残日数を確認する
残っている年次有給休暇の日数は、給与明細や勤怠システムで確認できます。
退職日までにどう消化するかは、引き継ぎの計画と一緒に相談します。
退職日を先に決めてから残日数を確認すると、消化しきれない日数が出ることがあります。
先に残日数を確認してから退職日を決めるほうが、調整の幅が残ります。
取り扱いに疑問がある場合は、就業規則の記載を確認したうえで、公的な窓口に相談できます。
受け取る書類と返す物を一覧にする
退職後に前の勤務先から受け取る書類には、離職票、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、年金に関する書類などがあります。
このうち源泉徴収票は、退職後に交付されるものです。
返す物には、健康保険証、社員証、貸与された端末や書類が含まれます。
受け取る物と返す物を一覧にしておくと、退職後に連絡を取り直す手間が減ります。
次の勤務先の入社手続きで求められる書類は、内定の段階で案内されることが多くなっています。
社内外への伝え方は上司と決める
同僚や取引先にいつ伝えるかは、自分だけで決めない項目です。
先に伝わると、引き継ぎの段取りより先に人の噂が動きます。
上司と話した時点で、誰にいつ伝えるかを決めます。
取引先への連絡は、後任と一緒に行う形になることが多くなっています。
伝える順番を決めておくと、引き継ぎの説明を何度も繰り返さずに済みます。
最終出社日と退職日は別に扱う
有給休暇を消化する場合、最終出社日と退職日がずれます。
この2つを混同すると、社会保険の切り替えや書類の受け取りの時期を誤ります。
どちらの日付を指しているのかを、やり取りの中で明確にします。
社会保険や税の具体的な手続きは個別の事情によって変わるため、年金事務所や税務署、社会保険労務士といった窓口で確認するのが確実です。
まとめ
- 2024年の離職者数は約719.5万人、離職率14.2%で、退職の申し出は例外的な出来事ではない
- 伝える前に、就業規則の定めと転職先の入社日を確認しておく
- 民法627条1項は、期間の定めのない雇用契約が解約の申入れから2週間で終了すると定めている。
就業規則の日数とは分けて見る - 最初に伝えるのは直属の上司。
相談ではなく決定として時期を含めて伝える - 引き止めで条件を提示されたら、辞める理由に対応しているかと、書面で示されるかを確認する
- その場で結論を出さず、期日を切って持ち帰る
- 退職日を決める前に有給休暇の残日数を確認し、受け取る書類と返す物を一覧にする
- 判断に迷う場合は、労働局や労働基準監督署の窓口で相談できる



