「薬剤師の転職は何月が動きやすいのか」という問いは、転職を考え始めた段階でよく出てきます。
ただし、この問いに数字で答えられる材料は限られています。
ここでは、確認できていないことを確認できていないと明示したうえで、代わりに何を見れば時期を判断できるのかを整理します。

求人が増える時期を示す出典は確認できていない

月別の傾向を示した調査が見つからない

当サイトで調べた範囲では、薬剤師の求人数が特定の月に増減することを示す、出典の確認できる調査データは見つかっていません。
「年度末が狙い目」「ボーナス後に動きが出る」といった説明を掲げている記事は存在しますが、調査の実施主体や集計対象が明示されていないものが多く、根拠として使える状態ではありませんでした。

そのため、この記事では特定の月を勧めることをしません。
根拠のない時期を示すより、確認できる事実だけを並べるほうが判断の役に立つと考えています。
以下では、出典が確認できるデータと、自分で確かめられる方法に絞って進めます。

時期に関する情報を読むときは、根拠が集計データなのか書き手の見立てなのかを区別しておくと迷いにくくなります。
集計であれば対象期間と件数が示されているはずです。
示されていない場合は、見立てとして扱うほうが安全です。

断定できないことを断定しない

「この時期を逃すと不利になる」という言い方は、動く理由がないときにも動く判断を促してしまいます。
逆に「いまは時期が悪い」という言い方も、条件の良い求人が出ている場合に見送る理由になりかねません。
どちらも根拠が確認できない以上、判断の前提に置かないほうが安全です。

時期の話が意味を持つのは、求人側の事情と自分側の事情のどちらかに具体的な理由があるときです。
求人側の事情については確認できる材料がないため、この記事では自分側の条件から組み立てます。

なお、年度替わりや賞与の支給後に人が動くという説明は職種を問わず広く見られますが、薬剤師の求人でそれが起きていることを示すデータは確認できませんでした。
他職種で言われている傾向を薬剤師に当てはめる説明にも、根拠は見当たりません。

年単位であれば確認できるデータがある

有効求人倍率は下がってきている

薬剤師の有効求人倍率は、2015年の7.18倍から2021年には2.68倍まで下がりました(出典: Method Innovation)。
1人あたりの求人数がおよそ5件減った計算になります。

この変化は月単位の話ではなく、年単位の傾向です。
ただし2.68倍という水準は、他の職種と比べれば依然として低くありません。
**「動ける時期が終わった」のではなく、「どこでも同じ条件では選べなくなった」**と捉えるほうが実態に近くなります。
地域による差もあり、都市部は飽和の傾向にある一方、地方や在宅医療・病院の領域では不足が続くと見られています(出典: ジョブジョブ)。

つまり、いま動くべきかどうかを全国の平均値だけで判断することはできません。
自分が希望する地域と領域で求人がどう出ているかを見るほうが、時期の判断には直結します。
同じ年でも、勤務地を変えれば見える景色が変わります。

需給推計では2030年頃が境目とされている

厚生労働省の検討会がまとめた需給推計では、2030年頃までは需給が同程度で推移し、それ以降は供給が需要を上回る(薬剤師が余る)と予測されています(出典: 厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」とりまとめ)。

これは全国の総量に関する推計であり、特定の年に何が起きるかを示すものではありません。
ただ、年単位で見れば需給の方向は示されています。
この見通しの詳細は薬剤師は将来的に供給過剰になる?で扱っています。

推計を時期の判断に使うとすれば、「何年以内に動くか」という長さの単位になります。
今月動くか来月動くかという判断の材料にはなりません。
単位の違う数字を、目の前の判断に持ち込まないほうが混乱が減ります。

月ごとの傾向は自分の条件で数える

同じ条件で定点観測する

一般論としての「動きやすい月」は確認できませんが、自分の希望条件に限れば求人の増減は自分で数えられます。
勤務地の範囲、勤務先の種別、経験年数の条件を固定し、同じ検索条件で求人件数を月に1回記録していきます。

3か月も続ければ、自分の条件でどのくらいの求人が動いているかが見えてきます。
ここで得られる数字は、どこかの記事に書かれた一般論より、自分にとって正確な判断材料になります。
検索条件が広すぎると変化が見えないため、実際に応募しうる範囲に絞って行います。

始めた時点の件数を1回控えておけば、翌月から比較ができます。
求人サイトによって掲載の更新頻度が違うため、比較は同じサービスの中で行います。
別のサービスの件数と並べても、増減の意味が変わってしまいます。

記録する項目は3つに絞る

記録するのは、件数、提示されている年収の幅、勤務条件で気になる項目の3つで足ります。
項目を増やすと続かず、続かなければ比較になりません。

同じ条件で並べていくと、条件の良い求人が出たときに「これは相場より良い」と判断できるようになります。
時期を待つのではなく、判断できる状態を先に作っておくという考え方です。

この作業に応募の準備は含まれていません。
求人を見て記録するだけであれば在職中でも続けられ、条件の良い求人が出た月がそのまま動く時期になります。

時期は自分の側の条件から決まる

在職中に進めるかどうかで期間が変わる

在職中に進めるか、退職してから始めるかで、使える時間も判断の余裕も変わります。
収入が続いている間は「条件が合わなければ見送る」という選択ができますが、退職後は期限が判断を左右しやすくなります。
進め方は在職中の転職活動はどう進める?で扱っています。

在職中の場合、面談や見学に充てられる時間は限られます。
勤務シフトの都合で動きやすい月があるなら、それは求人側の事情より優先度の高い条件です。

日程の調整は、勤務表が確定してから行うほうが確実です。
候補日を2つか3つ出せる状態にしておくと、やり取りの往復が減ります。
時間が取れない時期に無理に進めると、確認が不十分なまま判断することになります。

準備の期間から逆算する

転職活動の期間は3〜6か月が目安とされています(出典: マイナビ転職)。
入職したい時期が決まっているなら、そこから逆算した時点が動き始める時期になります。

薬剤師の場合、勤務先の種別を変えるかどうかで必要な準備が変わります。
同じ業態の中で移るのか、病院や企業に移るのかによって、確認する項目も応募の準備も変わってきます。
業態をまたぐ場合の考え方は薬剤師の業態変更はできる?で整理しています。

入職したい時期に希望がある場合は、その条件を最初に伝えておきます。
時期は紹介される求人の範囲に影響するため、後から伝えるほど調整が増えます。
逆に、時期を決めていないのであれば、決めていないと伝えるほうが正確です。

サービスを使い始める時期の考え方

情報収集の段階なら登録型から

当サイトのデータでは、薬剤師向けサービス12件のうち、会員登録から利用が始まる登録型はファーマキャリア、レバウェル薬剤師、ファゲットの3件です。
求人の相場を見るだけの段階であれば、こちらから始めるほうが手間がかかりません。

登録型で相場をつかむ作業は、時期を決める前に済ませておける工程です。
相場が分からないまま時期だけ決めても、条件の良し悪しを判断できません。

見た求人の条件は記録に残しておくと、後の判断に使えます。
数か月前の相場と比べられる状態になっていれば、提示された条件が高いのか低いのかを自分で評価できます。

方向が固まってから面談実施型へ

面談実施型は6件で、薬剤師の派遣・転職 お仕事ラボ、ファルマスタッフ、アイリード、ヤクジョブ、MC─ファーマネット、セルワーク薬剤師が該当します。
希望が言語化できている段階のほうが、紹介される求人の精度は上がります。

ただし、方向が固まる前に相談すること自体が問題になるわけではありません。
この点は薬剤師は相談だけでサービスを使ってよい?で扱っています。

まとめ

  • 薬剤師の求人が特定の月に増えることを示す、出典の確認できる調査は見つかっていない
  • 確認できるのは年単位の傾向で、有効求人倍率は2015年7.18倍から2021年2.68倍へ低下している
  • 厚労省の需給推計では、2030年頃までは需給同程度、それ以降は供給過剰と予測されている
  • 月別の傾向は、自分の希望条件で求人件数を記録すれば確かめられる
  • 時期は求人側の事情より、在職中かどうかと準備の期間から決めるほうが判断しやすい