「転職の軸は何ですか」と聞かれて、うまく答えられないことがあります。
検索すると軸の例が並んだページが出てきますが、そこから自分に近いものを選んでも、面接で掘り下げられると理由を説明できません。

軸が言葉にできないのは、考えが足りないからではありません。
導き方の手順を持っていないからです。
ここでは、現職での経験を材料にして軸を作る手順を4段階で整理します。

働いた経験が無い状態から探す新卒の場合は出発点が違うため、就活の軸が決まらないときは?を参照してください。
この記事は、すでに働いている人が現職の評価から軸を導く手順を扱います。

軸は思い出すものではなく作るもの

例から選ぶと理由が付かない

軸の例として並べられるのは、成長できる環境、風通しのよい組織、社会に貢献できる仕事といった言葉です。
どれも間違いではありませんが、選んだだけでは「なぜそれなのか」に答えられません。

面接で聞かれるのは軸そのものではなく、なぜその軸になったのかという経緯です。
経緯は自分の経験の中にしかないため、例から選ぶ限り出てきません。

中途は判断材料をすでに持っている

一方、働いた経験がある人は、材料を持っています。
いまの職場で何が足りていて何が足りていないかを、実感として知っています。

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」では、転職入職者が前職を辞めた理由の上位に、労働時間や休日の条件、給与、人間関係が並びます(出典: 厚生労働省)。
実際に動いている人も、抽象的な理想ではなく具体的な不足から動いています。

「やりがい」で止まると求人と照らせない

ただし、実感をそのまま言葉にすると抽象的になります。
「やりがいが無い」「風通しが悪い」という表現は、求人票のどの欄とも対応しません。

軸として機能するのは、求人を見たときに当てはまる/当てはまらないを判定できる形になったものです。
そこまで落とす作業が、以下の4つの手順になります。

手順1:現職に点数をつける

項目を先に固定する

最初にやるのは、いまの職場を項目ごとに採点することです。
項目を自由に挙げると偏るため、先に固定します。
次の8項目で始めます。

項目 見るところ
仕事の内容 担当している業務そのものへの納得
任される範囲 判断できる範囲、裁量の大きさ
身につくもの この先も使える経験が増えているか
労働時間 所定労働時間、残業、休日の取りやすさ
勤務地 通勤時間、転勤の可能性
給与 金額と、上がり方の見通し
評価のされ方 何を基準に評価されているか
一緒に働く人 上司、同僚、教わる相手

5段階でつけ、平均を出さない

各項目に1から5で点をつけます。
全体の満足度を1つの数字にする必要はありません。
平均を出すと、この作業の目的である項目ごとの差が消えます。

つけにくい項目があれば、そこは3にして先に進みます。
迷った項目は、優先度が高くないということでもあります。

低い項目と高い項目の両方を見る

点数が低い項目が、いま動きたい理由です。
ここは意識しなくても目に入ります。

見落とされやすいのは、点数が高い項目のほうです。
いま満たされているものは、転職すると失う可能性があります。
通勤が近い、人間関係が良い、休みが取りやすい。
こうした項目が4や5であれば、それは転職後も維持したい条件として扱います。

手順2:転職後に何点でありたいかを書く

全部5点にはしない

同じ8項目に、転職後の希望する点数を書きます。
ここで全部を5にすると、次の手順で差が出ず、絞り込みができません。

現実的には、上げたい項目が2〜3、いまの水準を維持したい項目が3〜4、下がってもよい項目が1〜2という配分になります。

下がってもよい項目を1つ決める

この作業で最も効くのが、下がってもよい項目を明示的に1つ決めることです。
すべてを満たす求人は出てこないため、どこかを譲る前提で探すことになります。

先に決めておかないと、選考が進んで条件が提示された段階で、その場の判断で譲ることになります。
譲る項目を先に決めた場合と、追い込まれて決めた場合では、入社後の納得が変わります。

家族や生活の制約は点数の外に置く

通える範囲、家を離れられない事情、必要な収入の下限といった制約は、点数ではなく可否で扱います。
点数の表に混ぜると、譲れないものが譲れるように見えてしまいます。

制約は別の欄に「必須条件」として書き出しておきます。
この欄に入るものは、後の手順で真っ先に求人の絞り込みに使います。

手順3:差の大きい順に3つ並べる

差が動く理由になる

現職の点数と希望する点数の差を、項目ごとに引き算します。
差が大きい順に並べると、上位に来た項目が転職する理由そのものです。

たとえば、給与が2で希望が4なら差は2、労働時間が2で希望が4なら差は2、仕事の内容が4で希望が4なら差は0。
差が0の項目は、転職の動機にはなっていません。

3つに絞る

差の大きい上位3つを取ります。
4つ以上にすると、条件を満たす求人が残りません。
3つであれば、必須1つと歓迎2つという形で求人を絞り込めます。

このとき、差が同じ項目が並んだら、どちらを先にするかを自分で決めます。
この選択自体が、優先順位を言語化する作業になります。

この3つが軸になる

上位3つの項目名が、そのまま軸の骨格です。
「労働時間・給与・任される範囲」という3つが並べば、それが自分の軸です。

面接で理由を聞かれたときも、答えられます。
現職での点数と、そう評価した具体的な出来事を1つ添えれば、経緯の説明になります。
例文から選んだ軸には、この出来事の部分が存在しません。

手順4:求人票の欄名に変換する

抽象的な言葉は求人票に無い

軸が3つ決まっても、そのままでは求人を絞れません。
「任される範囲」という欄は求人票にありません。

そこで、項目を求人票の欄名に変換します。
変換できたものは比較に使え、変換できなかったものは質問に回します。

点数をつけた項目 求人票で見る欄
労働時間 所定労働時間、年間休日数、時間外労働の有無と平均
勤務地 就業場所(会社の所在地ではない)、転勤の範囲
給与 月給の内訳、固定残業代の時間数、賞与の実績
仕事の内容 業務内容、担当する工程の記載
任される範囲 業務内容の具体性、募集の背景
身につくもの 応募要件の「歓迎」欄、研修の記載
評価のされ方 記載されないことが多い
一緒に働く人 記載されない

欄ごとに何を見るかは求人票のどこを読むかにまとめています。

変換できなかった項目は質問リストへ

上の表で「記載されない」となった項目が軸の上位に来た場合、求人票だけでは判断できません。
面接や面談で聞く項目になります。

聞き方は、制度ではなく運用を尋ねる形にします。
「評価はどのくらいの頻度で、誰が行いますか」「配属予定の部署は何人体制ですか」という形であれば、具体的な回答が返ってきます。

求人を10件見て検算する

変換した条件で求人を検索し、10件ほど並べます。
候補が1件も出てこない場合、条件が厳しすぎるか、その組み合わせが市場に存在しません。

このとき見直すのは、手順2で決めた「下がってもよい項目」です。
ここを1つ増やすと候補が出ることがあります。
軸を捨てるのではなく、譲る幅を調整するという直し方になります。
求人を見る段階の進め方は転職するか迷っている段階では何をする?にまとめています。

軸が途中で変わったとき

変わること自体は問題ではない

面接を受け、企業の話を聞くと、優先順位が入れ替わることがあります。
情報が増えた結果であり、直すべきことではありません。

問題になるのは、変わったことに気づかないまま応募先を選び続けることです。
応募した企業の傾向がばらつき、志望動機に一貫性がなくなります。

変えた理由を1行残す

軸が動いたと感じたら、点数の表に戻り、変わった項目とその理由を1行書き足します。
「B社の面接で、担当範囲が広い環境では自分の学習が追いつかないと分かった」という程度で足ります。

この1行が、選考で聞かれたときの答えになります。
理由が説明できる変更は、一貫性が無いとは受け取られません。

内定を比べる段階でも使う

複数の内定が出たとき、比較の重み付けに同じ3項目を使えます。
すべての条件を同じ重さで比べると同点になりますが、軸の3つで先に比べると差がつきます。

比較する項目の並べ方は複数の内定が出たときの比較軸にまとめています。
志望動機に落とすときの書き方は転職の志望動機はどう書く?で扱っています。

まとめ

  • 軸は例から選ぶものではなく、現職の評価から作るもの。
    中途は材料をすでに持っている
  • 手順1:8項目に固定して現職に1〜5で点をつける。
    平均を出さない
  • 高い点の項目は、転職で失う可能性のあるもの。
    維持したい条件として扱う
  • 手順2:転職後に望む点数を書く。
    下がってもよい項目を1つ先に決める
  • 通える範囲や必要な収入の下限は、点数ではなく可否の欄に分ける
  • 手順3:差が大きい順に3つ並べる。
    この3つが軸の骨格になる
  • 手順4:項目を求人票の欄名に変換する。
    変換できないものは質問リストへ回す
  • 求人を10件見て候補が出なければ、軸を捨てずに譲る幅を調整する