親や配偶者の介護が始まると、いまの働き方では続かないと感じる場面が出てきます。
急な呼び出しに対応できない、通院の付き添いで平日に休みが要る、勤務時間が長すぎて手が回らない。
理由はさまざまですが、いずれも「辞めるか続けるか」という二択に見えてきます。
ここで扱うのは、その二択の前に確認できることと、実際に転職する場合に見る条件です。
介護職として働く人の転職ではなく、家族を介護している会社員が主題になります。
介護をしながら働いている人は365万人いる
働いている人のほうが多い
総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、介護をしている人は約629万人で、そのうち有業者は約365万人でした(出典: 総務省統計局)。
介護をしている人の半数以上が働いています。
介護が始まったら仕事を辞めるのが一般的、という前提は統計とは合いません。
離職している人は年間約11万人
同じ調査では、介護等を理由とした離職者は年間約11万人で、うち女性が約8万人でした(出典: 同調査)。
365万人という母数に対して11万人という数字をどう読むかは、立場によって変わります。
ただ、続けている人が圧倒的に多い一方で、離職が女性に偏っているという事実は読み取れます。
二択にする前に見るもの
数字が示しているのは、両立している人が多数派だということです。
両立できている人と離職した人の違いは、意志の強さではなく、使える制度を知っていたかどうかと、勤務条件が合っていたかどうかである可能性があります。
そのため、転職を検討する前に確認する順序があります。
制度が使えるか、要因は何か、その要因は転職で解決するのか、という3つです。
転職を決める前に使える制度
介護休業
育児・介護休業法では、労働者は要介護状態にある対象家族の介護のために、休業を申し出ることができるとされています。
対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して取得できる形が定められています(出典: 厚生労働省「育児・介護休業法」)。
この93日は、自分が付きっきりで介護するための期間としては足りません。
制度の趣旨は、介護の体制を整えるための期間という位置づけです。
誰が日常の介護を担うのか、どのサービスを使うのかを決めるために使います。
介護休暇
介護休業とは別に、短期の休みを取るための制度があります。
対象家族が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日を限度として取得でき、時間単位での取得も認められています(出典: 厚生労働省「育児・介護休業法」)。
通院の付き添いや、ケアマネジャーとの打ち合わせのように、半日程度で終わる用事に使える形です。
年次有給休暇とは別の制度であるため、有給を使い切ってしまう前に確認する価値があります。
労働時間に関する措置
このほか、所定外労働の制限や、所定労働時間の短縮等の措置についても定めが置かれています。
制度の対象範囲や手続きは改正が続いているため、最新の内容は厚生労働省の資料と勤務先の就業規則で確認してください。
個別の適用については、都道府県労働局の窓口で相談できます。
制度は申し出て使うもの
これらの制度は、申し出なければ動きません。
勤務先が状況を察して声をかけてくれることは期待できません。
まず就業規則の該当箇所を読み、次に人事の担当窓口に確認します。
上司にだけ相談して終わらせると、制度の話ではなく個別の配慮の話になります。
配慮は担当者が代わると消えますが、制度は規程として残ります。
介護保険の窓口に先に相談する
勤務先の制度と並行して、介護そのものの体制を確認します。
要介護認定を受けているのであれば担当のケアマネジャー、まだ受けていないのであれば市区町村の窓口や地域包括支援センターが相談先になります。
デイサービスの利用や訪問介護の頻度が変わるだけで、必要な休みの回数が変わることがあります。
転職で解決しようとしていた問題が、介護サービスの組み替えで解決する場合があります。
順序として、こちらを先に確認するほうが選択肢が残ります。
転職で解決するかを見極める
妨げになっている要因を1つ特定する
制度と介護サービスを確認しても状況が変わらない場合、勤務条件そのものが合っていないことになります。
ここで必要なのは、何が妨げになっているかを1つに絞ることです。
漠然と「両立できない」と考えている限り、どの求人を見ればよいかが決まりません。
要因を特定すると、変えるべき条件が自動的に決まります。
要因ごとに変える条件が違う
| 妨げになっていること | 転職で変える条件 |
|---|---|
| 通院や呼び出しに駆けつけられない | 就業場所と通勤時間 |
| 平日に休みが取りにくい | 休暇制度と、担当を分担している体制か |
| 勤務時間が長い・終業が遅い | 所定労働時間と時間外労働の記載 |
| 夜間や早朝の対応と勤務が重なる | 勤務時間帯とシフトの有無 |
| 転勤があり、介護の場所から離れる | 就業場所の変更の範囲 |
この表の左側が2つ以上当てはまる場合、優先順位を付けます。
すべてを満たす求人は出てこないため、1つ目を必須、2つ目以降を歓迎として扱います。
転職では解決しないもの
一方、転職では変わらないものもあります。
介護に必要な時間の総量、家族の中での役割分担、経済的な負担の大きさは、勤務先を変えても同じです。
これらが主な負担である場合、転職より先に介護の体制側を組み替える必要があります。
勤務先を変えることで解決するのは、時間の位置と場所の制約だけという整理をしておくと、判断がぶれません。
求人条件のどこを見るか
就業場所と通勤時間
急な呼び出しに対応する必要がある場合、最も効くのは通勤時間です。
片道が30分縮まれば、駆けつけるまでの時間もそのぶん縮まります。
求人票の勤務地の欄が会社の所在地なのか実際の就業場所なのかは、確認が要ります。
候補地が複数ある場合は、最も遠い場所を前提に見ます。
欄の見分け方は求人票のどこを読むかにまとめています。
転勤・異動の範囲
労働条件を明示する際には、就業の場所について、雇入れ直後の内容だけでなく変更の範囲もあわせて示すこととされています。
介護の場所から離れられない事情がある場合、この欄が最も重要になります。
面接で「基本的に転勤はない」と聞いていても、書面で範囲が広く書かれていることがあります。
書面での確認手順は労働条件通知書の確認ポイントにまとめています。
勤務時間帯とシフトの有無
固定の時間帯で働く形と、シフト制で日によって変わる形では、介護の予定の立てやすさが変わります。
シフト制の場合、希望をどの程度出せるか、いつまでに提出するかが確認事項になります。
夜勤や早朝勤務が含まれる場合、それが必須なのか免除の余地があるのかも聞きます。
求人票に「交替制」とだけ書かれている場合、具体的な時間帯は質問の対象です。
休暇と体制
年次有給休暇以外に、企業が独自に設けている休暇があるかを見ます。
介護に関する休暇を法定の日数より手厚くしている企業もあります。
ただし、制度の有無より重要なのは体制です。
担当が1人に固定されている部署では、休みを取ること自体が難しくなります。
「配属予定の部署は何人体制で、担当をどう分けていますか」という聞き方であれば、具体的な回答が得られます。
在宅勤務の使い方
在宅勤務が可能であれば、通院の送迎の前後に働くという組み方ができます。
ただし、頻度と、中抜けができるかどうかは別の話です。
制度として在宅が認められていても、勤務時間中に離席する扱いが決まっていないことがあります。
在宅の可否と、時間の使い方の自由度は分けて確認します。
選考でどう伝えるか
伝える必要があるのは条件が付く場合
介護をしていること自体を申告する義務はありません。
伝える必要があるのは、それによって働き方に条件が付く場合です。
勤務地を動かせない、特定の時間帯に対応できない、月に数回は平日に休みが要る。
こうした条件があるなら、選考の早い段階で伝えます。
内定後に持ち出すと、前提が変わったという扱いになります。
事実と必要な条件を分ける
伝え方は、状況の説明と必要な条件を分けます。
「同居の家族を介護しており、月に2回程度、平日の通院に付き添う必要があります」という形であれば、企業側は受け入れられるかどうかを判断できます。
事情を詳しく話す必要はありません。
配慮を求める言い方ではなく、条件の提示として伝えるほうが、話が具体的に進みます。
サービスを介する場合
面談を伴う転職サービスを使っている場合、条件は担当者に先に伝えます。
担当者が企業側に事前に確認してくれるため、面接で改めて説明する回数が減ります。
条件を伝えると紹介される求人が減りますが、それは条件に合わない求人が除かれた結果です。
伝えずに進めて選考の終盤で明かすほうが、時間の損失は大きくなります。
サービスの方式の違いは登録型と面談型の転職サービス、どちらを選ぶ?にまとめています。
在職中に進める
介護をしながらの活動では、時間の確保が難しくなります。
それでも、退職してから探す進め方は避けるほうが安全です。
収入が途切れた状態では、条件ではなく期限で応募先を決めることになります。
面談の日程をどう作るか、書類をいつ準備するかは在職中の転職活動はどう進める?にまとめています。
まとめ
- 介護をしている人約629万人のうち、約365万人は働いている。
離職者は年間約11万人で、うち女性が約8万人 - 転職の前に、勤務先の制度と介護サービスの2つを確認する
- 介護休業は対象家族1人につき通算93日・3回までの分割取得、介護休暇は**年5日(2人以上で10日)**と定められている
- 介護休業は付きっきりで介護するための期間ではなく、体制を整えるための期間という位置づけ
- 制度は申し出て使うもの。
上司への相談だけで終えず、規程と人事の窓口で確認する - 転職で変わるのは時間の位置と場所の制約だけ。
介護の総量は変わらない - 妨げになっている要因を1つ特定すると、見る求人条件が決まる
- 働き方に条件が付く場合は、選考の早い段階で事実と必要な条件を分けて伝える



