配偶者や子を扶養している人が転職すると、家族の分の手続きが発生します。
自分の健康保険と年金が切り替わるのに合わせて、扶養している家族もそこに入れ直すことになるためです。

このとき厄介なのが、日本語で「扶養」と呼んでいるものが1つの制度ではないという点です。
健康保険や年金で使う扶養と、所得税で使う扶養は、判定の基準も提出する書類も別に定められています。
片方の手続きだけを済ませて、もう片方が漏れることが起こります。

なお、退職した本人が家族の健康保険に入る側の話は退職から入社までの社会保険と年金にまとめています。
この記事は逆に、扶養している側が新しい勤務先で家族を入れ直す手続きを扱います。

「扶養」は2つの別々の制度

社会保険上の被扶養者

1つ目は、健康保険と国民年金の制度です。
家族が被扶養者として認められると、その家族は自身で保険料を負担せずに健康保険の給付を受けられる形になります。

配偶者については、年金の扱いも関わります。
厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者が要件を満たす場合、国民年金の第3号被保険者として扱われます。
健康保険の被扶養者と、年金の第3号は別の判定ですが、届出の窓口はどちらも勤務先です。

税法上の扶養親族

2つ目は、所得税と住民税の制度です。
生計を一にする親族が要件を満たすと、扶養控除や配偶者控除などの対象になり、納める税額が変わります。

こちらは健康保険とは無関係に判定されます。
家族が誰の健康保険に入っているかは、税の判定には直接関係しません。

一方に当てはまっても、もう一方に当てはまるとは限らない

2つの制度は基準が別に定められているため、片方だけに当てはまる状態が普通に起こります。
よくあるのは、社会保険の被扶養者ではあるが税法上の控除の対象にはならない、という組み合わせです。

社会保険上の被扶養者 税法上の扶養
何が変わるか 家族の健康保険と年金の扱い 自分が納める所得税・住民税
判定の考え方 これからの収入の見込み その年の1年間の所得
提出する書類 健康保険 被扶養者(異動)届 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
提出先 勤務先を経由して年金事務所・健康保険組合 勤務先(保管される)

同じ「扶養に入れる」という言葉で、2つの別の手続きを指していることを最初に押さえると、以降の作業が整理できます。

新しい勤務先に出す2つの書類

健康保険 被扶養者(異動)届

社会保険上の扶養に入れるための書類です。
転職して新しい勤務先の健康保険に加入するとき、家族を被扶養者として届け出ます。

日本年金機構の案内では、事実の発生から5日以内に事業主を経由して届け出ることとされています(出典: 日本年金機構)。
実際には入社手続きの書類一式に含まれていることが多いため、勤務先の案内に従って提出します。
届出が遅れると、家族の保険証が手元に届く時期も後ろにずれます。

配偶者を扶養する場合は年金の届出も伴う

配偶者が20歳以上60歳未満で、被扶養者の要件を満たす場合、国民年金の第3号被保険者に該当します。
この届出は、健康保険の被扶養者の届出と一体の様式で扱われるのが一般的です。

ここを別の手続きだと考えて放置すると、配偶者の年金の記録に空白が生まれます。
健康保険の届出を出せば年金も自動的に処理される、と決めつけずに、様式に第3号の欄があるかを確認します。

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

税法上の扶養を申告するための書類です。
給与から差し引かれる所得税の額に反映されるため、入社時に提出を求められます。

国税庁の案内では、その年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出することとされています(出典: 国税庁)。
2か所以上から給与を受けている場合、この申告書は1か所にしか提出できません。
年の途中で転職した場合は、新しい勤務先に提出する形になります。

16歳未満の子も申告書には書く

扶養控除の対象は年齢の要件があり、16歳未満の子は所得税の扶養控除の対象になりません。
ただし、申告書に書かなくてよいわけではありません。

住民税の計算に関わるため、申告書には16歳未満の扶養親族を記載する欄が設けられています。
控除の対象にならないから空欄でよい、という扱いにすると住民税の算定に影響します。

空白期間があるかどうかで手順が変わる

退職日の翌日に入社する場合

前の勤務先の資格を失った日と、新しい勤務先の資格を取得した日がつながっていれば、家族の手続きも新しい勤務先で完結します。
提出するのは前述の2つの書類です。

この場合でも、前の勤務先には家族の分の健康保険証を返します。
返す対象に家族の分が含まれることを忘れやすい部分です。

空白がある場合は家族の分も切り替える

退職日と入社日の間が空くと、その期間は自分だけでなく家族も健康保険の資格を失った状態になります。
国民健康保険に加入するなら、家族の分も含めて手続きします。

配偶者が国民年金の第3号だった場合、その資格も同時に失われます。
第1号被保険者への種別変更が必要になるため、市区町村の窓口で自分の分と一緒に手続きします。
世帯で何人分の手続きが発生するかを、退職前に数えておくと窓口へ行く回数が減ります。
詳細は退職から入社までの社会保険と年金にまとめています。

空白の期間だけ扶養から外れるわけではない

国民健康保険には被扶養者という考え方がなく、世帯の全員がそれぞれ被保険者になります。
転職前後で「扶養に入っている家族」という状態が一時的に途切れる形になります。

これは制度の切り替えによるもので、家族が扶養から外れる判断をされたわけではありません。
新しい勤務先で改めて被扶養者の届出を出せば、そこから被扶養者として扱われます。

判定の基準は制度ごとに違う

社会保険は今後の収入の見込みで見る

社会保険の被扶養者に当たるかどうかは、これからの収入の見込みで判断されます。
日本年金機構の案内では、年間収入130万円未満であること、同居の場合は被保険者の年収の2分の1未満であることなどが要件として示されています(出典: 日本年金機構)。

年間収入という言葉が使われていますが、これは過去1年の実績ではなく、今後1年間の見込みという扱いです。
去年いくら稼いだかではなく、これからどうなるかで判断される点が税とは大きく違います。
要件は改正されることがあるため、手続きの前に加入先の健康保険の案内を確認してください。

税はその年の所得で見る

税法上の扶養は、その年の1月から12月までの所得で判定します。
年の途中で状況が変わっても、最終的にはその年全体の金額で決まります。

判定に使う金額の要件は、税制の改正で見直されることがあります。
金額の記憶で判断せず、その年の国税庁の案内を確認するようにします。

配偶者は「扶養控除」ではない

配偶者を税法上の扶養に入れる場合、適用されるのは扶養控除ではなく配偶者控除または配偶者特別控除です。
名前が違うだけでなく、判定の仕組みも別に定められています。

これらの控除は、配偶者の所得だけでなく、申告する本人の所得によっても扱いが変わります。
本人の所得が一定額を超えると対象外になるため、自分の年収が上がる転職では確認が要ります。
年収が動く仕組みは転職で年収は上がる?下がる?にまとめています。

転職に伴って扶養の可否が変わることがある

自分の収入が変わる場合

転職で年収が上がると、配偶者控除などの適用が変わる可能性があります。
逆に年収が下がった場合も、判定の位置が変わります。

社会保険の被扶養者の判定にも、同居している場合は被保険者の年収との比較が入ります。
自分の収入が変わることで、家族の扶養の可否まで動くという関係を押さえておきます。

家族の収入が変わる場合

配偶者が働き方を変える予定があるなら、その見込みも判定に関わります。
社会保険は今後の見込みで判断されるため、予定が決まっているなら届出の時点で申告します。

後から実態と食い違いが判明すると、遡って扶養から外れる処理になることがあります。
この場合、その期間に受けた給付の扱いが問題になります。
判断に迷う場合は、加入先の健康保険に確認してください。

年末調整で前職の分をまとめる

年の途中で転職した場合、その年の所得は前の勤務先と新しい勤務先の両方から発生しています。
年末調整は、新しい勤務先で1年分をまとめて行うのが原則です。

このために、前の勤務先が交付する源泉徴収票を新しい勤務先へ提出します。
扶養控除等申告書だけを出しても、前職分の所得は反映されません。
退職時に受け取る書類の確認は労働条件通知書の確認ポイントでも触れています。

つまずきやすい点

保険証が届くまでの期間

届出を出してから家族の保険証が手元に届くまでには日数がかかります。
この間に家族が医療機関を受診する場合の取り扱いは、加入先の健康保険で確認します。

資格の確認ができる書類を発行してもらえる場合があります。
受診の予定があるなら、届出を出した時点で先に確認しておくと慌てずに済みます。

添付書類が必要になる

被扶養者の届出には、続柄や収入の状況を確認するための書類の添付を求められることがあります。
求められるものは加入先や状況によって異なります。

住民票や課税に関する証明書など、市区町村で取得するものが含まれる場合があります。
入社日の直前に案内を読むと間に合わないことがあるため、案内が届いた時点で必要なものを確認します。

前の勤務先での手続きも確認する

新しい勤務先での届出に気を取られがちですが、前の勤務先では扶養から外れる処理が行われています。
家族の分の保険証の返却が漏れると、この処理が止まります。

退職時に何を返し、何を受け取るのかは、退職を伝えた時点で一覧にしておきます。
伝える順序と段取りは退職はどう伝える?にまとめています。

判断は窓口で確認する

被扶養者に当たるかどうか、控除の対象になるかどうかは、個別の事情によって変わります。
記事の一般論で結論を出せる領域ではありません。

社会保険は加入先の健康保険または年金事務所、税は勤務先の担当部署または税務署が確認先になります。
制度が2つある以上、確認先も2つあるという前提で進めてください。

まとめ

  • 「扶養」は社会保険上の被扶養者と税法上の扶養という別の制度。
    基準も書類も違う
  • 新しい勤務先に出すのは、健康保険 被扶養者(異動)届と、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 被扶養者(異動)届は、事実の発生から5日以内に事業主を経由して届け出ることとされている(日本年金機構)
  • 配偶者を扶養する場合、国民年金の第3号被保険者の届出も伴う
  • 扶養控除等申告書は、最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出する(国税庁)。
    2か所へは出せない
  • 16歳未満の子は所得税の扶養控除の対象外だが、住民税に関わるため申告書には記載する
  • 社会保険は今後の収入の見込み、税はその年の所得で判定する
  • 退職日と入社日が空くと、家族の分も国民健康保険・国民年金への切り替えが発生する
  • 年の途中の転職では、前職の源泉徴収票を新しい勤務先へ提出して年末調整でまとめる
  • 個別の判断は、加入先の健康保険・年金事務所・税務署で確認する