保育の職場では、長く働いても役職が増えないという状態が続いてきました。
主任と園長の枠が埋まっていれば、経験を重ねても肩書きも手当も変わらない。
これは個々の園の方針というより、保育所という組織の構造そのものに理由がありました。
この構造に対して国が用意したのが、保育士等キャリアアップ研修です。
ここでは、制度がどういう形になっているのか、研修の分野と役職の要件を整理し、転職のときに研修の履歴がどう扱われるのかまでをまとめます。
経験年数だけでは処遇が上がりにくかった
役職の枠が限られていた
一般的な保育所では、役職は主任保育士と園長にほぼ限られていました。
中間の職位が制度として置かれていなかったため、経験を積んだ保育士が担う役割が増えても、それが職位や手当に結びつく仕組みがありませんでした。
結果として、経験年数が上がっても処遇が横ばいになる期間が長くなります。
転職経験のある保育士106人へのアンケートでは、転職理由の2位が「収入アップのため」で29人でした(株式会社ビズヒッツ調査、n=106、2022年1月13〜29日実施。
出典)。
収入が動く見通しを持てないことは、辞める理由として上位に来る要素です。
中間の役職を作るために研修が制度化された
こうした事情を背景に、平成29年4月に厚生労働省が「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」を示し、保育士等キャリアアップ研修が制度化されました(出典: 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」)。
研修を修了することを要件として、主任保育士の下に中間的な役職を置ける仕組みが整えられたものです。
この制度の要点は、研修そのものより、研修が役職と処遇に接続している点にあります。
単に学ぶ機会を増やすのではなく、修了を役職の要件に据えたところが従来の研修と違います。
実施するのは都道府県
研修を実施するのは各都道府県です。
都道府県が直接実施する場合と、指定した事業者や団体が実施する場合があります。
そのため、年間の開催回数、申込の方法、受講できる人数、開催地は都道府県によって違います。
自分が受講できるかどうかは、勤務先の都道府県の実施要綱でしか確認できません。
全国一律の日程表があるわけではないため、勤務先の主任や園長、あるいは都道府県のサイトで確認することになります。
専門分野は6つに分かれる
分野の内訳
研修の専門分野は、次の6つに分かれています。
| 分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 乳児保育 | 3歳未満児の保育に関する内容 |
| 幼児教育 | 3歳以上児の保育・教育に関する内容 |
| 障害児保育 | 障害のある子どもの保育に関する内容 |
| 食育・アレルギー対応 | 食育の推進とアレルギーへの対応 |
| 保健衛生・安全対策 | 保健衛生の管理と事故防止 |
| 保護者支援・子育て支援 | 保護者への対応と地域の子育て支援 |
(出典: 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」)
日々の業務で担当している内容と重なる分野もあれば、担任として関わってこなかった分野もあるはずです。
どの分野から受けるかは、いま担当している業務と、将来どの役職を目指すかの両方で決まります。
なお、この6つは保育の専門分野にあたるもので、これとは別にマネジメントに関する研修が置かれています。
後述するとおり、上位の役職ではマネジメントの研修が要件に含まれます。
1分野あたり15時間程度
研修時間の目安は、1分野につき15時間程度とされています(出典: 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」)。
日数にすると2〜3日程度にあたります。
まとまった時間を確保する必要があるため、勤務のシフトと重なると受講できません。
受講できるかどうかは、園がその時間をどう扱うかに左右されます。
勤務時間として扱う園もあれば、休日に自費で参加する形になる園もあります。
この違いは大きいので、後述するとおり転職時の確認項目になります。
分野の選び方は目指す役職で変わる
役職によって、必要な分野の数が違います。
1分野だけで足りる役職と、複数分野の修了が求められる役職があるため、順番を考えずに受けると必要な分野が後から足りなくなります。
いま担当している年齢層に対応する分野から受けるのが自然な進め方ですが、複数分野が必要な役職を視野に入れているなら、初期の段階で全体像を確認しておくほうが無駄が出ません。
役職ごとに求められる要件が違う
職務分野別リーダー
職務分野別リーダーは、経験年数が概ね3年以上で、担当する分野の研修を修了していることが要件とされています(出典: 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」)。
6分野のうち自分が担当する分野の研修を修了することが条件になるため、必要な研修は1分野からです。
最初に目指す役職として想定されている位置づけになります。
副主任保育士
副主任保育士は、経験年数が概ね7年以上で、職務分野別リーダーを経験していること、そしてマネジメント分野を含む3分野以上の研修を修了していることが要件とされています(出典: 厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」)。
要件が3つ重なる形になっており、研修だけを積んでも到達しません。
職務分野別リーダーとしての経験が間に挟まるため、経験年数の条件を満たしていても、園でその役割を担っていなければ次に進めない構造です。
なお、制度上はこれ以外の役職区分も設けられています。
呼称と要件は都道府県の実施要綱や園の規程で定められるため、目指す役職が決まっている場合はそちらで確認します。
要件が「概ね」で示されている意味
要件の経験年数は「概ね3年以上」「概ね7年以上」という形で示されています。
厳密な年数で線を引く書き方ではありません。
これは、園の状況に応じて運用に幅を持たせるための書き方だと読めます。
裏を返すと、同じ経験年数でも園によって扱いが変わりうるということです。
年数を満たしたから自動的に役職に就くわけではなく、園の体制と判断が挟まります。
制度と実際の給与は直結しない
配分の仕方に幅がある
研修の修了と役職の設置は、処遇改善のための加算に結びつく仕組みになっています。
ただし、加算として園に入った分がどう配分されるかは、園の判断による部分があります。
そのため、同じ役職に就いていても、手当の額が園によって違うことがあります。
制度があることと、自分の給与がいくら増えるかは、分けて考える必要があります。
人件費全体は引き上げが続いている
2024年度の保育士等の人件費(公定価格)は前年度比10.7%引き上げられました。
これは2015年の子ども・子育て支援新制度開始以降で最大の引き上げ率です(出典: 東京すくすく)。
全体としては原資が増えている方向ですが、その増加分が個々の職員の給与にどう反映されるかは園ごとに違います。
市場全体の動きは保育士の転職市場はいま?にまとめています。
求人票では役職手当の書き方を見る
求人票を見るときは、月給の額面だけでなく、役職手当の項目があるかどうかを見ます。
「職務分野別リーダー手当」「副主任手当」といった名称で個別に記載している園もあれば、手当の名称を示さずに給与の幅だけを書いている園もあります。
記載の粒度そのものが、園が制度をどう運用しているかの手がかりになります。
求人票の読み方は求人票のどこを読むかにまとめています。
転職するときに研修の履歴はどう扱われるか
修了は個人に残る
研修を修了すると修了証が交付されます。
これは個人に対して交付されるものなので、園を移っても消えません。
都道府県をまたぐ場合の扱いは実施要綱によるため、転職先が別の都道府県にある場合は事前に確認します。
職務経歴書に書くときは、修了した分野名と修了年を並べます。
担当してきた年齢層や業務と対応させて書くと、経験の裏づけとして読まれやすくなります。
書き出す順序は職務経歴書はいつ作ればよいかにまとめています。
転職先で役職に就けるかは別の話
ここが誤解されやすい部分です。
研修を修了していることと、転職先ですぐ役職に就けることは同じではありません。
役職の枠は園ごとに決まっており、すでに埋まっていれば空きが出るまで就けません。
修了証は要件を満たしている証明であって、役職を保証するものではありません。
転職先で役職を前提に条件を考えているなら、その枠が空いているかどうかを確認する必要があります。
面談で確認する3つの項目
こうした事情から、制度の運用については求人票だけでは読み取れない部分が残ります。
園ごとの運用を確かめたいなら、確認すべき項目は3つです。
研修の受講を勤務時間として扱っているか、受講にかかる費用を園が負担するか、そして役職の枠に空きがあるか。
この3つは、園に直接聞くか、園と話せる立場の人に聞かないと分かりません。
ここで面談を伴うサービスが役に立ちます。
ほいく畑は面談実施型で、対応地域は北海道・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨・静岡・愛知・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・岡山・山口・福岡・佐賀の20都道府県です。
園ごとの体制を聞きたい段階では、この形が向いています。
先に相場を見てから聞く
ただし、いきなり面談から入ると、何を聞けばよいかが定まらないまま話が進みます。
先に求人を並べて、役職手当がどう書かれているかを見ておくと、質問が具体的になります。
当サイトのデータでは、保育メトロと保育専門求人サイトが全国を対象とする登録型で、会員登録の時点から求人を見られます。
レバウェル保育士も登録型で、対応地域は北海道・宮城・茨城・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・京都・大阪・兵庫・岡山・広島・福岡の15都道府県、保育士・幼稚園教諭の有資格者が対象です。
方式ごとの違いは保育士は面談なし・電話なしで転職サービスを使える?で扱っています。
いまの園で研修を受けられるかどうかを先に確認する、という選択肢もあります。
辞める前に確認できることは保育士を辞めたいと思ったらに整理しています。
まとめ
- キャリアアップ研修は平成29年4月に制度化され、実施するのは各都道府県
- 研修は乳児保育・幼児教育・障害児保育・食育アレルギー対応・保健衛生安全対策・保護者支援子育て支援の6分野
- 研修時間の目安は1分野につき15時間程度(2〜3日程度)
- 職務分野別リーダーは経験年数概ね3年以上と、担当分野の研修修了が要件
- 副主任保育士は経験年数概ね7年以上、職務分野別リーダーの経験、マネジメントを含む3分野以上の研修修了が要件
- 要件は「概ね」で示されており、同じ年数でも園によって扱いが変わりうる
- 修了証は個人に残るが、転職先で役職に就けるかは枠の空き次第



