保育士の仕事は、子どもと過ごす時間だけで終わりません。
日誌、指導計画、連絡帳、出欠の管理、行事の準備。
これらは子どもが園にいる間には手をつけにくく、休憩時間や退勤後、あるいは持ち帰りに回りやすい作業です。
この部分を減らす手段として、国は保育所等のICT化に補助を出してきました。
ここでは、その制度がどういう形なのか、現場で何が変わって何が変わらないのか、そして転職先を選ぶときにどう見分けるのかを整理します。
保育の負担は子どもと向き合う時間の外にもある
書きものの量が多い
保育の記録は種類が多くあります。
日々の保育日誌、月案や週案といった指導計画、園児ごとの連絡帳、発達の記録、出欠と登降園の時刻、行事の計画と報告。
それぞれ書く相手も目的も違うため、一つにまとめられません。
同じ情報を複数の書類に転記する場面も出てきます。
登降園の時刻を紙の名簿に書き、それを集計して延長保育の請求に使い、さらに月次の報告に転記する、という流れが典型です。
転記が増えるほど、時間も間違いも増えます。
労働時間が転職理由の上位に来る
転職経験のある保育士106人へのアンケートでは、転職理由の3位が「労働時間への不満」で28人、5位が「多忙だから」でした(株式会社ビズヒッツ調査、n=106、2022年1月13〜29日実施。
出典)。
人間関係と収入に次いで、時間に関する項目が並びます。
保育士全体の離職率は9.3%で全産業平均より低い水準ですが、退職理由を見ると給与と仕事量に関する項目が上位を占めています(出典: なるほど!ジョブメドレー)。
仕事量のうち、記録や事務の比重がどれだけあるかは園によって違います。
手書きが残る理由
紙が残るのは、園が意欲を欠いているからとは限りません。
システムの導入には費用がかかり、端末の台数、通信環境、職員が操作を覚える時間も必要になります。
年度の途中で切り替えると、記録の形式が変わって混乱します。
つまり、ICT化が進むかどうかは現場の意識より、費用と体制の問題であることが多くなります。
だからこそ、国が費用の側を補助するという形をとってきました。
国は保育所等のICT化に補助を出してきた
業務システムの導入費用が補助の対象
こども家庭庁は、保育所等業務効率化推進事業(保育所等におけるICT化推進等事業)として、保育所等が業務システムを導入する費用の一部を補助しています。
対象となるのは、保育の記録、保護者との連絡、登降園の管理などを扱うシステムです(出典: こども家庭庁「保育所等業務効率化推進事業」)。
補助の対象が「記録・連絡・登降園管理」であることは、現場の負担がどこに集まっていると国が見ているかを示しています。
保育そのものではなく、その周辺の事務を減らすための制度という位置づけです。
午睡センサーなど事故防止の機器も対象
同じ事業では、午睡中の状態を確認するセンサーなど、事故の防止に関わる機器の購入も補助の対象に含まれています(出典: こども家庭庁「保育所等業務効率化推進事業」)。
午睡中の呼吸や体位の確認は、一定の間隔で職員が目視と記録を行う業務です。
センサーはこの確認を置き換えるものではありませんが、記録の作業と見落としの負担を補う役割を持ちます。
ここも、事務と安全確認という保育の周辺部分にあたります。
2026年度から加算方式に変わる予定
制度の形は変わろうとしています。
2026年度(令和8年度)からは「保育ICT推進加算」が新設される予定とされています(出典: こども家庭庁)。
これまでの補助は、導入時の費用を一度だけ補填する形が中心でした。
加算方式になると、導入して活用を続けることで毎年の運営費として受け取れる形になります。
一度きりの支援から、続けることに対する支援へ変わるという違いです。
ここで注意したいのは、これが現時点では予定であるという点です。
制度の内容や開始時期は今後変わる可能性があるため、確定した条件として受け取らず、こども家庭庁の公表資料で最新の状況を確認してください。
ICT化で変わることと、変わらないこと
転記と集計が減る
システムが入って最も分かりやすく変わるのは、同じ情報を何度も書き写す作業です。
登降園の記録がそのまま集計に使われれば、月末の計算がなくなります。
連絡帳が保護者のアプリとつながっていれば、返信の受け渡しに紙が要りません。
指導計画も、前年度の様式を呼び出して編集する形になれば、白紙から書き起こす時間が減ります。
減るのは考える時間ではなく、書き写す時間です。
導入しただけでは運用は変わらない
一方で、システムを入れても紙が残る園があります。
理由はいくつかあります。
保護者の一部が紙の連絡帳を希望している、監査や行政への提出書類が紙の様式である、職員の操作が定着していない、といった事情です。
この状態になると、システムと紙の両方に記録することになり、かえって作業が増えます。
「導入している」ことと「負担が減っている」ことは別だと考えたほうが実態に近くなります。
移行の時期は負担が増える
新しいシステムに切り替える時期は、操作を覚える時間と、過去の記録を移す作業が乗ります。
年度をまたぐタイミングで切り替える園が多いのはこのためですが、それでも一定期間は負担が増えます。
入職の時期がこの移行期に重なると、保育の手順とシステムの操作を同時に覚えることになります。
避けるべきという話ではありませんが、想定しておくと落差が小さくなります。
求人と見学での見分け方
求人票の表記だけでは判断できない
求人票に「ICT導入済み」「業務効率化を進めています」と書かれていても、そこから分かるのは何かを導入したという事実だけです。
どの業務が対象なのか、紙と併用しているのかまでは読み取れません。
一方で、システムの名称や、対象としている業務を具体的に書いている求人もあります。
書き方の粒度そのものが手がかりになります。
求人票のどこを読むかは求人票のどこを読むかにまとめています。
見学や面談で聞く3つの質問
実態を確認したいなら、聞く内容は3つに絞れます。
何を導入しているか、どの業務が対象か、紙と併用している業務は残っているか。
この3つを聞くと、「導入済み」という一言では見えなかった範囲が分かります。
あわせて、指導計画を作る時間が勤務時間内に確保されているかを聞くと、記録の負担がどう扱われているかが具体的になります。
システムの有無より、記録に使う時間が勤務時間の中にあるかどうかのほうが、日々の負担に直結します。
見るのは持ち帰りの有無と時間外の実績
ICT化は手段であって目的ではありません。
確認したいのは、結果として持ち帰りが発生しているかどうかです。
求人票の時間外労働の実績、年間休日数、開所時間の記載を並べ、そのうえで面談や見学で持ち帰りの扱いを聞きます。
数字と運用の両方をそろえると、園ごとの差が見えます。
辞める前に確認できることの全体像は保育士を辞めたいと思ったらに整理しています。
確認の順序に合わせてサービスを使い分ける
求人を並べる段階は登録型が向いている
ここまでの確認は、まず求人を数件並べるところから始まります。
この段階では面談は要りません。
会員登録の時点で求人を見られるサービスのほうが、負担が小さく済みます。
当サイトのデータでは、保育メトロと保育専門求人サイトが全国を対象とする登録型です。
レバウェル保育士も登録型で、対応地域は北海道・宮城・茨城・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・京都・大阪・兵庫・岡山・広島・福岡の15都道府県、保育士・幼稚園教諭の有資格者が対象です。
地域を絞って運営しているサービスもあり、保育バランスと保育エイドは埼玉・千葉・東京・神奈川・京都が対象です。
運用まで聞く段階は面談型が向いている
前述の3つの質問は、求人票には答えが書かれていません。
園ごとの運用を知っている人に聞く必要があります。
ここで面談を伴うサービスが役に立ちます。
ほいく畑は面談実施型で、対応地域は北海道・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨・静岡・愛知・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・岡山・山口・福岡・佐賀の20都道府県です。
方式ごとの違いは保育士は面談なし・電話なしで転職サービスを使える?にまとめています。
聞く内容を決めてから面談に進む
順序を逆にすると、面談で何を聞けばよいか決まらないまま話が進みます。
先に求人を並べ、書かれていないことを洗い出してから面談に進むと、1回のやり取りで得られる情報が増えます。
まだ転職を決めていない段階でも、この作業は始められます。
手順は転職するか迷っている段階では何をする?にまとめています。
まとめ
- 国は保育所等の業務システム導入費用を補助しており、対象は記録・保護者連絡・登降園管理など
- 午睡センサーなど事故防止に関わる機器の購入も補助の対象に含まれる
- 2026年度からは「保育ICT推進加算」が新設される予定で、活用を続けることで毎年受け取れる形に変わる(予定であり、確定した条件ではない)
- 減るのは考える時間ではなく書き写す時間。
導入しても紙と併用していれば負担は残る - 求人票の「ICT導入済み」だけでは実態が分からないため、対象業務と紙との併用状況を聞く
- システムの有無より、記録に使う時間が勤務時間内にあるかのほうが日々の負担に直結する



